JSCF NPO法人 日本せきずい基金

脊髄疾患関連用語集
2004年6月 日本せきずい基金事務局編

* 欧文用語集    * 欧文用語集 DL用エクセルファイル

ア行 カ行 サ行 タ行 ナ行 ハ行 マ行 ヤ行 ラ行

NSAIDs 非ステロイド系抗炎症薬(nonsteroidal anti-inframmatory drugs)
 消炎解熱鎮痛薬の一種でアスピリンが代表的。 ステロイドホルモンと同様に炎症(発赤、腫脹など)を抑えて鎮痛作用を発揮するが、化学構造と作用機序が異なる。

P物質 substance P  脊髄、脳などに存在する物質で、痛みの伝導を促進。

SSRI selective serotonin reuptake inhibitor 選択的セロトニン再取り込み阻害薬
 抗うつ薬。1988年floxetine(商品名:プロザック)が米国で発売。日本でも99年にSSRIのフルボキサミン(デプロメールなど)が発売され、臨床応用が開始された。ほかにバロキセチン(パロキシン)がある。SSRIはシナプスでセロトニントランスポーターに作用し、シナプス前へのセロトニンの再取り込みを選択的に阻害して、抗うつ作用を発現するとされる薬物である。従来の三環系抗うつ薬に比べ、抗コリン作用、抗アドレナリン作用など、他の受容体に対する作用が弱く、副作用が少ないとされる。だが、効果は三環系抗うつ薬よりは弱く、効果の発現もこれまでの薬物と同様、投与開始後約2週間かかる。

VAS Visual Analogue Scale バス
 痛みの評価尺度のひとつ。Maxwell(1978)の創設。10センチの線に、考えられうる最高の痛みを10、痛みなしを0としてその線上に痛みの程度を示してもらう方法。


■ ア 行・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

亜急性壊死性脊髄炎 subacute necrotizing myelitis《フォア・アラジュアニン症候群》
 下肢の反射亢進、痙性に始まり、徐々に痙性対麻痺に移行する疾患。知覚障害は初期には解離性〔一部のみの障害〕であるが、しだいに全知覚脱出となる。直腸、膀胱の機能障害も起こる。髄液は初期には軽度のリンパ球増加だが、後にはタンパク上昇も加わる。病因は血管性病変とする考えが有力であり、特に既存の脊髄静脈瘤に、慢性閉塞性静脈内膜炎が加わったものとする説が有力である。 →脊髄静脈瘤

アロディニア allodynia (異痛症 allos 異なった+ dynia) 
 神経障害性疼痛にみられる症状。痛み 神経感作により、通常痛みを感じない程度の刺激でも痛みを感じる現象。片頭痛発作の75%は末梢神経感作後に中枢神経も感作されることが認められており、中枢神経感作が皮膚ア口ディニアとして発現すると皮膚が過敏な状態になる。

嚥下性肺炎〔エンゲセイハイエン〕
 口腔内容物や胃内容物が肺内に吸引された際、細菌も吸引してしまったために生じる肺炎。原因としては、脳卒中や意識消失などで気道内異物を排除する咳嗽〔ガイソウ:せき〕反射が欠如した場合や、ひんぱんに嘔吐が起きる場合、気管内カテーテルや鼻腔栄養チューブ挿入中などがある。治抗生物質の投与を行うが、感染を繰り返すため完全な治癒は難しく、重症になると呼吸不全による死亡もみられる。

横隔神経痛  phrenic neuralgia《横隔膜〔神経〕痛》
 頸部の腫瘍、大動脈瘤、心膜〔心臓を包む膜〕や縦隔〔胸郭中央部の胸腔〕の病変によって起こる。痛みは肋骨先端部、鎖骨下、頸の深部に感じ、ときには下顎や腕にまで拡がる。呼吸は促迫し、痛みのため呼吸困難を自覚する。痛みは左側に起こることが多い。

横隔神経麻痺 phrenic nerve paralysis
 麻痺側では、横隔膜の挙上、運動低下により下葉の無気肺、呼吸機能の減弱をきたす。両側の場合は呼吸困難をきたす。多発神経炎、頸髄疾患によるもののほか、甲状腺や前縦隔や肺の腫瘍による圧迫や浸潤、心臓手術時の局所冷却によるものがあげられる。
   →横隔膜麻痺

横隔膜 diaphragm ; diaphragma 
 横隔膜は胸腔と腹腔を分けているドーム状の筋腱性の隔膜で、呼吸機能に対し重要な役割を演じている。横隔膜は左葉、右葉と心臓の下にある中葉の3部に区別され、それぞれの中央部に腱中心があり、それを筋性部が取り巻いている。左右対称形で、中央前部を下大静脈、中央後部を下大動脈、左側後部で大動脈の前を食道が通過する。筋性部の収縮によって腱中心が下方に引かれ、胸腔の容積が増加する。横隔膜の運動により肺活量の60%が得られる。横隔膜の運動神経は頸神経叢の主としてC4とC3、C5に由来する横隔神経によって支配されている。左右の神経支配は独立している。知覚神経は横隔神経とT6からT12の肋間神経による。

横隔膜麻痺 paralysis of diagnosis
 横隔膜の運動神経、すなわち横隔神経の障害によって生じる横隔膜の麻痺。横隔神経は、左右でC3〜C5から発し、頸部から胸腔内に入り横隔膜に達するが、この間の損傷、腫瘍、炎症などで麻痺をきたす。頸髄そのものの障害による中枢性麻痺、経路中の障害による末梢性麻痺を区別することもある。X線像では、横隔膜の挙上と運動制限がみられ、症状は障害の一側性、両側性、および程度により無症状から重篤な呼吸不全まで種々である。

黄色靱帯 yellow ligament
 椎弓板〔椎骨の後部の弓形の部分〕上縁と後面から上位椎弓板の下縁と前面との間で、外側では椎間孔〔椎骨と椎弓と間にできる孔状の部分。積み重なって脊柱管を形成〕後縁に至るまでの間を連結する靱帯・腰椎でよく発達する。上下に走る大量の弾性線維を含み脊柱の伸展に役立つ。ときに靱帯が骨化することがある。

折りたたみナイフ現象 clasp-knife phenomenon《折りたたみナイフ[様]硬直》
 臨床的に錐体路障害時にみられる症状の一つ。肘、膝で被動的に屈曲すると初めに強い抵抗があり、次に急に抵抗がなくなる現象をいう。


■ カ 行・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

介達牽引〔カイタツケンイン〕
 巻軸帯や絆創膏、チンクライムなどを用いて間接的に骨を牽引しようとする方法。

灰白髄炎 poliomyelitis《脊髄灰白質炎》
 脊髄の灰自質の炎症の意であるが、急性灰白〔脊〕髄炎、すなわちポリオと同義に用いられることが多い。なお、慢性〔前角〕灰白髄炎は実際には進行性筋萎縮症であり、ウイルス性の急性灰白〔脊〕髄炎とは無関係。

力ウザルギー causalgia《灼熱痛、疼痛性熱感》
 主として外傷性の末梢神経の損傷後にみられる、自律神経症状を伴った灼熱性の疼痛を訴える疾患である。損傷を受けた神経の支配領域を中心に焼けつくような痛みと同部の血管拡張または血管収縮を示し、発汗過多や減少を呈することもある。また同部の皮膚は痛覚過敏や鈍麻などの知覚異常もみられる。原因としては、損傷部位において遠心性の交感神経線維と求心性の知覚線維の間に人工的シナプスが形成され、血管運動神経と知覚神経が正のフィードバックを持つためと考えられている。

〔喀〕痰 〔カクタン〕sputum
 口腔、鼻腔、咽頭、気管・気管支などの粘膜から出た分泌液および/あるいは濾出液に細菌、ウイルス、塵埃〔ジンアイ〕などが、不定の割合に混合したものである。痰の過剰産生は主に気管支分泌腺の腫脹〔シュチョウ〕によって起こり、咳によって口腔から吐き出される。
 痰は、通常、粘液痰と膿性痰に分類され、ウミを全くみとめないM1から、膿の部分が全体の2/3以上を占めるP3まで5段階に分けられている。痰のなかには、種々のタンパク質、ムチン、DNAのほか、分泌型のIgA〔免疫グロブリンA〕、リゾチーム、インターフェロンなど、気道防御の一翼を担う物質が含まれている。痰の検査は気管支、肺の状態を知る良い手段である。

喀痰検査 examination of sputum《検痰》
 喀痰は気道分泌物を主体とするもので、肺の炎症性疾患(肺炎、気管支拡張症、慢性気管支炎、肺結核など)、気管支喘息などのアレルギー性疾患、肺癌、タバコなどによる気道刺激など各種の病的状態で粘液分泌が亢進すると喀痰として吐き出される。喀痰はその性状から漿液性、粘液性、膿性、血性に分けられる。細菌学的検査としてグラム染色、抗酸菌染色による塗抹標本、細菌培養と同定、真菌、原虫の同定などを行う。

カテラン法 →脊髄硬膜外注射法

観血的治療/非観血的治療
 外科的手術によって出血をみるものを観血的〔カンケツテキ〕治療といい、内科的治療を非観血的治療という。

間欠導尿法 Intermittent catheterrization program(ICP)
 泌尿器のアクシデントや感染を防ぐために、カテーテルを挿入することによって定期的に膀胱を空にする“ICP”や“Cath”と呼ばれる日常プログラム。

関節可動域 Range of motion(ROM) 
 肩、膝、肘、股などの関節の動く範囲をいい、運動・動作障害の主要な原因の1つ。関節可動域は、関節構造、筋、腱、靭帯、皮膚の伸展具合、筋緊張等の因子によって規定され、また、肥満の程度、年齢、関節構造などの個人差により正常人のなかでも異なり、正常可動域の値は絶対的なものではない。

関節可動域訓練 Range of Motion Exercise:ROM exercise
 ROM訓練には他動的ROM訓練と自動介助的ROM訓練があり、その訓練の目的は関節可動域の維持および増大である。他動的ROM訓練は、拘縮を予防する最善の方法であり、ROM訓練の原則とされている。また、自動介助的ROM訓練は、自助による場合とセラピストや器械による介助があり、筋力の増強等を目的とする。

気管カニューレ tracheal cannula 《気管切開チューブ》
 気管切開時に、気道の役割をすると同時に、血液が気管内に侵入するのを防ぎ、気管腔内の分泌物を容易に排出させるため、切開した気管内に挿入する管。治療目的に応じて種々の変形管があり、またカフ付きのものと、ないものとがある。気管壁損傷の予防に低圧大容量カフを用い、カフ圧は20cmH2O以下が最適である。

気管カニューレ抜去困難症 prolonged endotracheal intubation
 応急的に挿入した気管カニューレが、目的を達成してすでに必要がなくなったとき、カニューレを抜去すると再び呼吸困難が起こり、抜去できない状態をいう。原因は、機能的なものと器質的なものに分かれる。前者は、患者が気管カニューレを通して抵抗の小さい呼吸になれたため、急に抵抗の大きい本来の自然呼吸に戻されるときに感じる恐怖心が原因であり、治療はカニューレ孔を閉塞して呼吸練習をさせることである。後者は、原疾患である気道狭窄が解除されない場合と、カニューレのために生じた二次的障害(肉芽形成、気管壁弯曲症、瘢痕狭窄症)とがある。治療は肉芽瘢痕の切除、気管形成術などがある。

気管支胸膜瘻(フィステル) bronchopleural fistula
 気管支が胸腔に開孔している状態。肺膿瘍や壊死性肺炎の穿破のほか肺切除術後、胸部外傷、人工呼吸による圧損傷によって起こることがある。気胸が必発で、しばしば胸腔内の感染性貯留液が対側肺に吸引されて重篤な呼吸不全をきたすことがある。治療は胸腔内にドレーン〔排液管〕を挿入し、吸引することが最も大切で、ついで瘻孔〔ロウコウ。病的な管状の穴〕の閉鎖術をし、続発する膿胸〔ノウキョウ。胸膜腔にウミがたまる〕に対しては胸郭形成術などを施行する。

気管支漏 bronchorrhea 
 気管支粘膜からの気道液の過剰分泌。細気管支肺胞型腺癌、慢性気管支炎などでみられることがある。

気管支瘻(フィステル) bronchial fistula
 気管支と、胸腔内あるいは外界(胸壁を介す)とが交通した状態。肺切除術後の合併症のうち最も治療困難なものである。通常、気管支断端縫合部の?開〔フンカイ〕により発生し、手術手技および断端部の結核病巣の存在が重要な因子となる。術後早期に発生したものを「早期気管支瘻」、術後2〜3ヶ月以上に発生したものを「晩期気管支瘻」という。術後順調であったものが、突然、咳喇〔ガイソウ〕、喀痰〔カクタン〕、発熱、血痰をきたし発見される。気管支瘻が発生すると、膿胸〔ノウキョウ〕を併発することが多い。治療は、瘻孔〔ロウコウ〕の閉鎖であり、その表面に有茎性筋肉弁を被覆することがある。
   →気管支胸膜瘻(フィステル)

気道内圧 airway pressure〈 Paw 〉
 気流が外気から肺胞に達するまでの通路(気道)の内圧をいうが、通常は気管内圧をさす。気管内挿管を行っている場合には、気管内挿管チューブと呼吸回路の接続部の圧をもって代用する。安静な自発呼吸時には、気道内圧は吸気時にわずかに陰圧、呼気時にわずかに陽圧となる。怒責〔ドセキ〕や咳の際には数十cmH2O以上の陽圧となる。間欠的陽圧人工換気時には、吸気相で気道内圧が陽圧になる。

気道内異物 foreign body in airway
 主として下気道(喉頭、気管、気管支)に陥入した異物をいう。異物が、鼻腔、喉頭、気管、気管支のいずれに存在するかによって、さらに異物の種類によって、換気障害の程度と処置は異なる。窒息により急死する危険が最も高いのは喉頭、気管内異物であり、ハイムリック法〔上腹部を圧迫し気道内圧を高め異物を噴出させる手技〕による喀出、緊急気管切開、気管支鏡による除去、気管支への落とし込みなどの処置をその場に応じて考慮することが必要である。気管支内異物は、小児における豆類の誤嚥が最も多く、放置すればしばしば重篤な合併症を起こすうえ、診断が容易でない例もあり、注意を要する。全身麻酔下に気管支鏡で摘出するのが原則である。
   →気管内異物

気道内清掃 tracheal toilet《気管〔支〕洗浄TBT》
 呼吸管理上、気管・気管支の喀出不能な、粘稠〔ネンチョウ〕な気道分泌物や、気道への吸引物の除去を目的として、気管内挿管を行い、人工呼吸をする一方で、生理的食塩液など洗浄液を気管内へ反復注入し、分泌物を融解させ、吸引除去しようとする気管内の洗浄法。

偽(仮)関節 pseudoarthrosis
 骨折部または骨切り部の骨癒合機転が、完全に停止した状態をいう。骨折端の間隙は線維組織または軟骨組織が介在している。X線写真で骨折端に硬化がみられ、また骨折端の辺縁は丸みを帯び、ここに異常可動性をみとめる。ただし、骨癒合能が全く消失したわけでなく、強固な内固定や硬化した骨の切除と骨移植などを行えば、再び骨癒合を再開させうる。原因は骨折部の不十分な固定、化膿、断端転位の過大、骨欠損の過大、断端間への軟部組織の嵌入〔カンニュウ〕、全身栄養不良などがある。

気管切開〔術〕tracheo〔s〕tomy
 頸部気管軟骨を切開し気道を確保すること。従来、上気道狭窄による呼吸困難時の緊急気道確保の第一手段として行われていた。しかし、現在では経口的あるいは経鼻的気管内挿管が日常の手技として普及するに至り、むしろ患者の状態が安定している時期に待期手術として行われる傾向にある。一般に気管切開の適応として、(1)上気道閉塞、(2)気道内分泌物の長期管理、(3)長期にわたる気道確保・呼吸管理を必要とする場合などがあげられる。また、喉頭癌に対する喉頭全摘除術の際には恒久的気管切開が行われる。

気管損傷 injury of trachea
 鈍的胸部外傷、特にハンドル外傷での発生が多く、衝撃による急激な胸腔内圧の上昇、あるいは肺の偏位によって閉鎖性損傷をきたすとされている。気管分岐部から2.5cm以内の膜様部が好発部位で、主気管支が断裂する場合もある。開放性損傷のほとんどは頸部に発生し、外力が直接作用した場合や鋭的損傷で起こる。症状は呼吸困難、咳喇、血痰で、皮下気腫、縦隔気腫、気胸などで、損傷部が大きく空気漏洩の多い場合は、強い換気不全や胸腔ドレナージ〔体位排痰法〕によっても改善しがたい気胸をきたす。このような場合に陽圧呼吸を行うと気胸の増大を招くので、気管内挿管チューブのバルーンは損傷部を越えるようにするか、あるいは片側挿管や左右別気管支内挿管を行った後、気管縫合術など、なんらかの修復術を行うことが必要である。

気管内挿管 endotracheal intubation
 患者の気道確保のための管を気管内に挿入すること。気管内挿管には、経口、経鼻および気管切開による三つの経路が考えられるが、一般に経口的気管内挿管が手軽で非観血的な方法として用いられることが多い。

気管内チューブ endotracheal tube
 気道確保を目的に気管内に挿管するチューブのこと。蘇生術や全身麻酔の際、非観血的に気道確保を行うために使用する「経口気管内チューブ」と、長期人工呼吸管理を必要とする際や、上気道閉塞など、特殊な状況下に気管切開を施行し使用する「気管切開用気管内チューブ」の2種類がある。近年、その材質に改良が加えられ、軟らかく気道粘膜を刺激しない塩化ポリビニルなどのプラスチック製チューブが頻用され、またカフも気道粘膜に与える側壁圧の問題から低圧カフがその主流となりつつある。

気管内麻酔 endotracheal anesthesia《経気管麻酔》
 気管内に挿管し、そのチューブを通じて吸入麻酔を行う方法であり、マスク麻酔と対比した語である。利点として、気道確保が確実で容易であること、解剖学的死腔が減少すること、気管内吸引が容易なこと、誤嚥〔ゴエン〕が防止できること、陽圧換気が容易に行えることなどがあり、長時間手術、頭頸部の手術、開胸術、開腹術、マスク保持のできない体位の手術が適応になる。欠点は、挿管技術を必要とすること、挿管操作やチューブ、カフにより気道損傷が起こりうること、咳喇反射(バッキング)が起こりやすいことなどである。

気管軟化〔症〕 tracheomalacia
 気管軟骨が脆弱なため、呼吸運動に伴って気管内腔を十分に保つことができずに呼吸困難を来たす疾患である。原因などはまだ不明な点が多い。従来、喘息として取り扱われていた症例のなかに本症が含まれている可能性がある。気管壁を自家組織や人工物によって補強する手術が行われる。 →気管虚脱、サーベル鞘(状)〔型〕気管

気管分岐部 tracheal bifurcation《カリナ;carina》
 気管が第4と第5胸椎間板の高さで左右の主気管支に分岐する部位。門歯からの距離は成人男性で27cm、女性で24cm前後である。右気管支は、正中線の気管に対して25゜で太く、左気管支は45゜でやや細い。したがって気管内チューブが気管分岐部を越えると右気管支に入りやすい。胸部X線写真、上気管分岐部の角度の変化から無気肺の存在なども推定できる。左房が拡大すると左主気管支がもち上げられ、気管分岐部の角度が大きくなる。気管分岐部の部分は特に知覚が敏感で、気管内チューブの先があたると、咳反射が起こりやすい。

気管分岐部再建術 carinal reconstruction
 気管気管支形成術の一つの術型群で、気管分岐部を部分、または全切除し、左右肺への分岐部を再建する術式をさす。この術式の合併症頻度は高く、形成術のなかでも高度の吻合技術を必要とする特殊な術型群といえる。

気管分岐部反射 carina reflex《カリナ反射》
 気道内のうち、気管分岐部は特に刺激に敏感な部位で、刺激により反回神経〔迷走神経の分枝〕を介して咳反射を誘発し、たとえば気管内挿管チューブの先がこの部にあると強い咳喇反射(バッキング)が起こりやすい。

気管瘻(フィステル)  tracheal fistula
 気管の外傷、悪性腫瘍の浸潤による組織損傷や炎症によって起こる。胸部気管に発生すると縦隔炎〔胸腔の炎症〕は必発で、発熱、縦隔気腫〔胸腔に気体が存在する〕、呼吸困難を起こす。また先天性、外傷性に気管食道瘻を起こし、肺炎を繰り返すことがある。

拮抗性鎮痛剤
 オピオイド〔アヘンのような作用をする化合物〕受容体に結合して鎮痛作用を発揮するが、モルヒネがミュー受容体に結合するのを阻害し、その鎮痛作用を弱めるのでモルヒネと併用してはならない。依存性の発生が少ないため、麻薬に指定されていない。

機能性イレウス functional ileus《神経失調性腸閉塞》
 腸管の蠕動〔ゼンドウ〕運動障害により腸内容の通過障害をきたす場合をいう。麻痺性イレウスと痙性イレウスに分類されるが、臨床上経験するのはほとんど前者である。内科的治療を原則とし、麻痺性の場合は蠕動運動亢進剤、痙性の場合は抑制剤を投与するが、電解質バランスの補正、抗生物質投与、イレウス管挿入、完全静脈栄養など、全身状態の維持と原疾患の改善治癒を図ることが重要である。

ギプスコルセット=脊椎ギプス包帯 

ギャバ (GAVA)
 脳の活動を抑制する神経伝達物質。GAVA誘導体のバクロフェンはけい性麻痺、三叉神経痛などに有効である。

局所麻酔剤
 ナトリウムチャンネルを阻害して、感覚神経の刺激伝達を阻害する。リドカイン(キシロカイン)、メピバカイン(カルボカイン)、ブピバカイン(マーカイン)、ロピバカイン(アナペイン)、テトラカイン(テトカイン)などが繁用される。リドカインは粘膜表面に滴下するだけで鎮痛効果を示す。

クモ膜下腔 subarachnoid space
 脳と脊髄を包む3枚の髄膜の中層をなすクモ膜と、内層の軟膜との間のすき間。クモ膜から多数の細い結合組織線維の小梁が出て軟膜と結合するので、クモ膜下腔は網状をなし、中に脳脊髄液を満たす。第四脳室正中口と外側口および終糸背側口により脳室系に通じる。

クモ膜下出血 subarachnoid hemorrhage〈SAH〉
 クモ膜下腔内に出血が起こり、脳脊髄液に血液が混入した状態。広義には、外傷性のものや、脳腫瘍・脳内血腫などからの出血あるいは血液の漏出も含むが、通常は、クモ膜下腔またはこれに隣接する脳実質内の血管病変により、クモ膜下腔内へ出血した病態をいう。脳卒中の約10%を占める。原因疾患としては脳動脈瘤が圧倒的に多いが、ほかに脳動静脈奇形、高血圧性・脳動脈硬化疾患などがあげられる。発症は全年代にみられるが、特に40〜60歳に多い。突発性の激しい頭痛で発症し、他覚的には項部硬直など髄膜刺激徴候をみとめる。CTスキャン、髄液検査で診断され、脳血管撮影などにより原因疾患を確定し、治療方針を定める。

クモ膜下注入 subarachnoidal injection
 治療あるいは検査目的のため、液体や気体をクモ膜下腔に注入する。腰椎穿刺のほか、特殊な場合には大槽穿刺、頸椎側方穿刺を行う。髄膜炎や髄膜癌腫症などに対する化学療法剤注入、腰椎麻酔や頑痛緩和のための薬剤注入、ミエログラフィやCTシステルノグラフィのための造影剤注入、気脳写やガスミエログラフィのための空気や窒素の注入、髄液漏検査のための試薬の注入などがあり、注入物質の種類、濃度、量を慎重に検討して行う。頭蓋内圧亢進のみられる場合には禁忌である。髄膜刺激症状のほか種々の副作用が出現しうる。

クモ膜下鎮痛〔法〕 subarachnoidal analgesia《クモ膜下無痛法、クモ膜下オピオイド;》
 クモ膜下腔に薬剤を注入して鎮痛を得る方法で、術後疼痛、癌性疼痛、分娩時痛などが対象となる。通常オビオイドが用いられ、作用機序は脊髄後角の膠様質に存在するオビオイド受容体との結合による。鎮痛作用はナロキソンで拮抗される。脂溶性の低いモルヒネでは、作用持続時間は長いが作用発現が遅く、脂溶性の高いメペリジンでは作用発現は速いが、持続時間が短い。硬膜外オピオイドに比べ薬剤は小量でよいが、呼吸抑制が起こりやすい。
   →硬膜外鎮痛法

クモ膜下ブロック subarachnoid block
 脊椎麻酔の一種、頸、胸椎から穿刺して脊髄神経後根に滅菌純エタノールや7〜10%フェノールグリセリンを作用させ、脊髄神経後根破壊を図る永久ブロックである。
   →脊椎麻酔

クモ膜下無水アルコールブロック subarachnoid ethanol block
 滅菌純エタノールをクモ膜下穿刺によって注入し、脊髄後根に触れさせて知覚線維をワーラー変性〔神経細胞から切断された遠位の神経線維に起こる変性〕させ、分節的に永久ブロックを得る手技。頸部以下の悪性腫瘍などによる疼痛、四肢痙性麻痺などが適応になる。手技は、痛みの発生する脊髄分節を厳密に測定して、その中央部分をクモ膜下腔穿刺し、体位は患側上の45°半腹臥位にし、その脊髄部分が最も高くなる(エタノールは低比重0.8)ようにして、0.3〜0.7m1のエタノールを緩徐な速度で注入する。同じ目的でフェノールグリセリンを用いることも多く、これは高比重なので、体位は逆になる。合併症として脊髄穿刺、直腸膀胱障害、運動麻痺、髄膜炎が起こりうる。

グリオーシス gliosis
 脳や脊髄などの中枢神経系に炎症や細胞の壊死などが起こると、異物の除去などのためにグリア(神経膠)が増えることをいう。

クレーデ法 Crede
 手による腹部への安定した圧迫により尿を排出し、膀胱を空にする方法。

痙縮 spasticity《痙直; spasm》
 臨床的にいう錐体路症状の一つ。皮質から前角への抑制がなくなって、筋伸展反射は著しく亢進し、筋緊張も亢進する状態。

頸神経ブロック cervical nerve block
 頸神経は左右8対の脊髄神経であり、後頭部、頸部および上肢の痛みは、頸神経と一部の胸神経によって伝達される。そのうちC1は運動神経であって知覚神経ではなく、C2は「後頭神経」とよばれていて、後頭の皮下より別な手技で容易にブロック可能である。その他の神経は後方より「傍脊椎(神経)ブロック」の要領で、あるいは側方より横突起の先端の脊髄神経溝部で行うブロック法である。一般的には側方より行うほうが距離が短く容易である。1ヶ所当り局所麻酔薬1.0%リドカイン3〜5m1を注射する、合併症は、クモ膜下穿刺、椎骨動脈損傷、ホルネル症候群〔瞳孔縮小、眼裂狭小、眼球後退の症状が出る〕、ほかの近位神経の麻痺(横隔神経、反回神経〔延髄に始まる迷走神経の分枝〕、迷走神経)などがある。咽頭部・頸部の悪性腫瘍、頸部外傷、後頭神経痛などに適用される。

痙性イレウス spastic ileus《痙攣性腸閉塞》 
 機能性イレウス〔腸閉塞〕の一つ。腸管の一部に強度の攣縮〔ケイシュク〕が持続するために腸内容の通過障害をきたすもので、極めて稀である。鉛中毒、ボルフィリン症、腹部打撲、腹腔内他臓器病変による神経反射などがあげられる。モルヒネ、アトロピン、パパベリンなどの鎮痙剤が用いられる。
   →機能性イレウス

頸性眼振  cervical nystagmus
 頸部捻転や、頸部振動刺激、電気刺激など、頸部に対する負荷により引き起こされる眼振〔リズミカルに反復する眼球運動〕。頸部刺激により、頸筋の緊張亢進、頸部交感神経の緊張亢進、椎骨動脈の血流不全などが生じ、眼振が発来すると考えられる。頭頸部外傷患者や、椎骨脳底動脈循環不全症などでみとめられやすい。

痙性失調〔性〕歩行 spastic ataxic gait
 錐体路障害(片麻痺性歩行)に脊髄後索または小脳の障害(失調性歩行)が加わったときにみられる(連合性脊髄変性症など)。
   →失調性歩行

痙性斜頸 spasmodic torticollis →斜頸

痙性対麻痺 spastic paraplegia
 一般に両下肢の痙性麻痺をさす。原因として、
(1) 脳病変によるもの;脳性小児麻痺、脳動脈硬化症、多発性硬化症、外傷、腫瘍など、
(2) 脊髄病変によるもの;頸・胸髄損傷、頸椎症、腫瘍、動静脈奇形、脊髄炎、亜急性連合性脊髄変性症、筋萎縮性側索硬化症、家族性痙性対麻痺などに分けられる。両下肢の痙縮と麻痺のため、歩行障害、膀胱直腸障害、自律神経障害が主な症状である。高位中枢からの抑制の消失により、遠心性の反応が集合反射の型で起こることが考えられる。

痙性排尿困難(障害)  spastic dysuria
 利尿筋の反射性収縮に対応して、尿道括約部の弛緩が十分行われなければ、排尿は不十分、不完全になる。仙髄、馬尾神経より上位の損傷、障害で生じる反射性神経因性膀胱において、利尿筋収縮反射が引き金となり、仙髄前角の運動神経節の過剰刺激を生じ、尿道外括約筋を含めた骨格筋の集団攣縮を誘発することが多く、排尿ができない。ときに膀胱知覚の過敏で利尿筋収縮を頻発し、高位中枢による抑制調節ができない状態では、絶えず失禁しているが、十分な排尿を行うほど利尿筋の収縮力がなく、残尿の多い排尿困難を自覚することもある。

痙性便秘 spastic constipation  
 腸の一部が過緊張状態となり、正常の蠕動〔ゼンドウ〕が行われないために起こる便秘。

痙性歩行 spastic gait 《アヒル歩行》
 広義には片麻痺歩行も含むが、狭義には、両側錐体路障害時の両下肢伸展、内反尖足位で、あまり足をあげず、爪先と足の外縁で床をこすりながら歩く歩幅の狭い歩行をさす。アヒルのように身体全体を揺さぶりながら小刻みに歩く(先天性股脱児などでもみられる)。痙性拘縮が強いときなどには、両足を鋏のように交叉させながら進むので、「はさみ状歩行」という。痙性脊髄麻痺などでみられる。

痙性麻痺 spastic paralysis
 筋肉の痙縮と腱反射の亢進を伴う麻痺で、上位運動ニューロン(錐体路)の障害による。痙縮のある場合は、急激な被動運動に際し抵抗を示す。しかも運動の初めは抵抗が大であるが、あるところまで動かすと急に抵抗が減じ、あたかも折りたたみナイフを操作しているようである(折りたたみナイフ現象)。慢性に徐々に痙性をきたす場合は、麻痺が出現する前駆として患者は運動の不器用さや筋力の減弱を自覚する。
   →折りたたみナイフ現象

経仙骨クモ膜下ブロック transsacral subarachnoid block
 クモ膜下腔は第2仙椎まで存在する。したがって、第1あるいは第2後仙骨孔より刺入し、正中方向でやや頭部方向に針を進めれば仙骨部のクモ膜下穿刺が可能である。その手技はかなり困難ではある。10%フェノールグリセリン液0.5〜0.7mlを注入し、仙髄の永久ブロックが可能である。膀胱直腸障害が少なく、効果も確実性がある。

経仙骨孔ブロック transsacral block
 直径約lcmの後仙骨孔より、脊髄神経ブロックを行う手法。腹臥位で前腸骨棘の下に枕を置く。上後腸骨棘より内側1cm、下方1cmにS2孔があり、仙骨角の外側1cm、上方1cmにS4孔があり、その中点にS3孔がある。S1孔はこれらの延長線上で、S2孔より1.5〜2.0cm上方にある。ブロックする仙骨孔上の皮膚より垂直に刺入、孔は筋膜でおおわれているのでこれを貫き、さらに内側へ約10゜傾けて約1cm進めて固定した部で局所麻酔薬5〜10mlを注入する。10%フェノールグリセリン液を用いて仙骨神経の永久ブロックを行うこともある。悪性腫瘍に対する永久ブロックに主として用いられる。仙骨神経領域、会陰、肛門などの麻酔にも用いられる。

頸椎 cervical vertebrae
 頸部の脊柱を構成する骨で、C1〜C7の7個ある。「椎体」と「椎弓」からなり、椎体は「横突孔」という穴をもつ横突起を左右に出し、椎弓は後方に張り出し、上方に上関節突起、後方に棘突起を出す。第1頸椎は「環椎」といわれ、椎体はなく、椎弓が環状となる。第2頸椎は「軸椎」ともいい、第1頸椎の椎体と癒合してできた歯突起がある。第7頸椎は棘突起が他のものより突出しているので「隆椎」ともいう。臨床上位置を知るときの目印にされる。

頸椎後縦靱帯骨化症 ossification of posterior longitudinal ligament of cervical spine
   →後縦靱帯骨化症〔コウジュウジンタイコッカショウ:OPLL〕

頸椎後頭骨固定 cervico-occipital fusion
 上位頸椎、主に第1、2あるいは3頸椎と後頭骨を移植骨で固定する方法。上位頸椎の先天異常、外傷、関節リウマチによる脱臼、腫瘍などに用いられる。

頸椎骨軟骨症 cervical osteochondrosis《頸〔部脊〕椎症》
 頸椎の椎間板と椎体の退行性変化により、椎間板の変形と骨棘〔コツキョク:骨増殖体〕形成をきたした状態をいう。元来、神経症状の有無とは無関係であるが、臨床的には有症状のものを意味する。症状は脊髄神経根と脊髄に対する直接圧迫、および椎骨動脈圧迫による血行障害により発現する。X線上で骨軟骨症をみとめる例の約半数に神経症状をみとめる。40歳以上の男性の下位頸椎に好発する。治療は根症状のみの軽症例には安静、頸部固定、牽引などの保存的治療を行い、回復の望めない例や脊髄圧迫症状のある例には手術的治療を行う。

頸椎症=頸椎骨軟骨症

頸椎損傷 cervical spine injury
 骨折や脱臼は、高所からの転落、プールヘの飛び込み、自動車事故など、大きなエネルギーが作用した場合に起こる。同時に、頭部にも外傷を受け、意識障害を伴うことが多いので、見逃されることがある。脊髄損傷を合併すると、四肢麻痺、呼吸障害が起こることも多い。このような事態がみとめられる場合には、最初の救助のときから頸椎を動かさないよう収容することが重要である。牽引、固定、観血的整復などが必要である。いわゆる鞭打ち損傷は、過伸展・過屈曲に基づく軟部組織の損傷であり、初期には局所の安静が治療の基本方針になる。

頸椎裂  tracheloschisis《先天性項部裂》
 脊椎管が先天的に背面に開いたままになっている脊椎裂のうち、頸椎に発生したもの。
無脳症、脊髄・脊髄膜瘤を伴う、全脊椎裂にみられる。

頸痛  neck pain
 頸部の疼痛の総称だが、その原因は多岐にわたり、十分解明されているとはいえない。しかし一般的には、項部〔うなじ〕痛の形をとることが多く、原因によっては、疼痛が肩や腕にまで及ぶことも少なくない。

係蹄式人工肛門造設〔術〕=ループ式人工肛門造設〔術〕

ケタミン
 静脈麻酔剤の一種。催眠作用と鎮痛作用を持つ。モルヒネの作用を増強し、進行癌患者の緩和ケアに有用である。神経障害性疼痛にも有効である。

ゲートコントロール説 gate-control theory
 ちょっとした刺激が激痛となったり、皮膚をさすることにより痛みが和らいだりする現象に対する説明として、1965年、R・MelzackとP.D.Wa11が提唱した説。つまり求心線維からの脊髄後角のT細胞への入力は膠様質によって調節されるという。すなわちT細胞より中枢へのインパルスの出力が、膠様質におけるゲートの開閉によりコントロールされて"痛い"、"痛くない"が決定されるというもので、このゲートの開閉は、太い線維からの入力量と細い線維からの入力量との比で決定されるほか、さらに中枢から膠様質への下降路のインパルスにより調節される。膠様質が興奮すると、T細胞におけるゲートは閉となり、"痛くない"、膠様質が抑制されると、ゲートは開となり"痛い"との感覚が生じる。

ケルニッヒ徴候 Kernig sign 
 髄膜刺激症状の一徴候。検査手技としては坐位、仰臥位、立位での方法があるが、仰臥位での方法が最も一般的である。仰臥位の患者の一側の足を検者の手で保持し、他方の手で膝を軽く押さえたまま伸展した下肢を挙上していくと、自動的に膝関節での屈曲が起こる場合を陽性とする。下肢後面の痛みを伴うことがあるが、痛みで屈曲するのではなく、下肢屈筋群の筋緊張亢進による屈曲であり、この点がラセーグ徴候との相違点である。 
   →ラセーグ徴候

牽引療法
 持続的に牽引力を作用させ、相接させる二つの体部を引離し、これによって疾患の順調な治癒をはかろうとするもの。

高位診断 segment diagnosis《脊髄分節診断》
 横断診断と並んで脊髄の障害部位を診断する方法。脊髄を上から下に31の分節に分け、各分節によって支配される筋運動や知覚・反射機能を検査することにより、脊髄障害の高さを確定する。高位診断と横断診断は脊髄部位診断ともいう。

交感神経・交感神経ブロック
 交感神経は、自律神経の一種で血管収縮、腸管・尿管などの弛緩、手のひらの発汗増加、内臓の痛覚伝導などの作用を持つ。この神経の作用を弱める交感神経ブロック(星状神経節ブロック、腰部交感神経節ブロック、胸部交感神経節焼灼術、腹腔神経叢ブロックなど)は、上・下肢の血流障害、手のひらの多汗症、癌や膵炎による腹痛などに有効である。

後根性失調 posterior-root ataxia《脊髄後根性失調》
 脊髄後根病変でみられる失調症。深部感覚障害により、位置覚、運動覚などを介するフィードバック機構を作動できないため、協調的な運動や起立・歩行が困難となる。後根障害による、異常知覚、筋肉痛、筋緊張低下、腱反射消失などが特徴であり、神経根炎などでみられる。

後縦靱帯骨化症 ossification of posterior longitudinal ligament〔コウジュウジンタイコッカショウ:OPLL〕
 脊椎の後縦靱帯に異常骨化を起こす疾患で、頸椎に多い。症状は脊椎管の狭窄によって、脊髄および神経根に障害をきたして出現する。初発症状として多いのは、項頸部の疼痛や違和感であり、しだいに四肢のしびれ感、痛み、知覚鈍麻などが進行する。頸椎側面X線では、椎体後縁に沿う棒状〜綿花状の異常石灰化陰影としてみとめられる。治療は、軽症例には理学療法や薬物療法などの保存的治療を行うが、進行した例には椎弓切除術などの外科的治療が必要となる。
   →靱帯骨化症

硬膜 dura mater《pachymeninx》
 中枢神経系を包む3枚の「髄膜」meninges(軟膜、クモ膜、硬膜)のうち、最も外側にある強靱な厚い結合組織性の膜。脊髄をおおう「脊髄硬膜」は2枚に分かれ、外板は脊柱管の骨膜となり、内板は脊髄を包む長い円筒状の嚢となっていて、両者の問に静脈叢と脂肪に富む結合組織がある。

硬膜外オピオイド=硬膜外鎮痛法

硬膜外血液パッチ  epidural blood patch→腰椎穿刺後頭痛

硬膜外血腫 epidural hematoma《硬膜上血腫;extradurl hematoma》
 硬膜や硬膜外の血管に損傷が起こり、血液が頭蓋骨と、その骨膜である硬膜との間に貯留した状態。大部分は外傷性だが、特発性もある。急性のものは中硬膜動脈の破綻による動脈性出血で前側頭部に生じやすい。亜急性・慢性のものは硬膜静脈洞、導出静脈、板間静脈の損傷による静脈性出血によって起こる。意識清明期、瞳孔不同、錐体路症候〔上位運動ニューロン障害〕の出現、頭部単純写における線状骨折などの臨床的特徴を示す。

硬膜外出血 epidural bleeding(hemorrhage)
   →硬膜外血腫

硬膜外腫瘍 epidural tumor
 脊髄あるいは脳の硬膜外にみられる腫瘍の総称。ただし後者にみられることは稀である。脊髄硬膜外腫瘍としては転移性腫瘍が圧倒的に多い。原発性のものとしては肉腫、血管腫、脊索腫、類皮腫〔扁平上皮がん等〕などがある。

硬膜外注射 epidural injection 
 脊柱管内のまばらな脂肪組織のある硬膜外腔に薬液を注入すること。椎間板障害、椎間板ヘルニアや変形性脊椎症などで、神経根や馬尾の刺激されている場合に鎮痛・消炎の目的で局所麻酔薬(通常、麻痺の起こらない濃度;リドカインでは0.5%以下)やステロイド剤、ビタミンB12剤を注入する。対症療法であり、ヘルニアなど機械的圧迫の強い場合には持続的効果は期待できない。鎮痛効果で防御姿勢が除かれ、原疾患の悪化の危倶もある。下位腰椎によく用いられるが、頸椎、胸椎部にも手技的に可能である。

膜外鎮痛法 epidural analgesia《硬膜外無痛法、硬膜外オピオイド》
 硬膜外腔に局所麻酔薬やオピオイド〔アヘンなど〕を注入して鎮痛を得る方法で、癌性疼痛、術後疼痛、分娩時痛などが対象となる。通常、持続硬膜外カテーテルを留置し、問欠的または持続的に薬剤を注入し、長期に及ぶ疼痛管理に用いる。患者に注入量を調節させる自己疼痛管理も可能。局所麻酔薬の作用機序・副作用などは硬膜外麻酔に同じ。オピオイドの鎮痛作用は、クモ膜下腔に浸透し脊髄後角膠様質に存在するオピオイド受容体との結合による。全身投与法より少ない投与量で、より強力な鎮痛作用が得られ、交感神経・知覚・運動は障害されない。副作用は呼吸抑制、尿閉、?痒感など。
   →クモ膜下鎮痛〔法〕

硬膜外膿瘍 epidural abscess
 頭蓋骨骨髄炎、副鼻腔炎、乳様突起炎に随伴することが多い。また頭皮や頭蓋骨の穿通創に併発したり、開頭術時の直接細菌汚染によっても生じる。稀に先天性皮膚洞に随伴することがある。硬膜外膿瘍は、脳硬膜が頭蓋内板に強く癒着しているため小さく限局していることが多いので、頭蓋内圧亢進症状や、局所神経症状を呈することは少ない。脳硬膜は感染に対して抵抗性が強く、炎症がこれより深部に波及することを防御している。しかし、血栓性静脈炎が導出静脈や静脈洞に発生すると、これらの経路より炎症が深部に進行し、硬膜下膿瘍や、さらには脳膿瘍を形成することがある。

硬膜外麻酔〔法〕 epidural anesthesia
 硬膜外腔に局所麻酔薬を注入すると、同部位を中心とした脊髄神経がブロックされて、知覚および運動麻痺が得られる。目的とする麻酔領域によって穿刺部位を選び、頸部、胸部、腰部硬膜外麻酔、仙骨麻酔などに分類される。ロック針の先端が硬膜外腔に入ったことの確認法には種々あるが、いずれも硬膜外腔が−1〜−3cmH2Oの軽度陰圧を呈し、硬膜外針が黄色靱帯を通過すると急に抵抗を消失することを利用する。抵抗消失〔法〕とハンギングドロッブ法がよく用いられる。脊椎麻酔と作用が似ているが、利点は頸部以下の任意の分節麻酔が得られ、持続硬膜外カテーテル留置により長時問の麻酔が可能、副作用としての血圧低下発現が緩徐で対処しやすいなどである。欠点は、手技に習熟を要する。脊椎1分節当り1〜2ml程度の大量の局所麻酔薬を要し、誤ってクモ膜下腔に大量の局麻薬が注入されて起こる全脊椎麻酔によって呼吸停止が発生する、局所麻酔薬中毒が発生しやすい、麻酔効果の発現に時間を要する、などである。

硬膜下エフュージョン subdural effusion
 頭蓋内硬膜下に液体が貯留した病態をいう。クモ膜に断裂を生じ、その裂け目より髄液およびクモ膜下出血などが流入して形成されるとされ、一般にエフュージョン〔流出、噴散〕は被膜形成をみとめない。内容液にも、水様透明なものから血性のものまである。
硬膜下エフュージョンの原因としては、外傷によりクモ膜に裂傷を生じたもの、髄膜炎後、慢性硬膜下血腫の内容が希釈された結果、などが考えられ、小児では髄膜炎、出産時外傷によるものが多い。治療は慢性硬膜下血腫に準じる。
  →硬膜下水腫

硬膜下血腫 subdural hematoma
 頭蓋内血腫の一型で、急性(亜急性)と慢性に分けられる。
   →頭蓋内血腫、急性硬膜下血腫、慢性硬膜下血腫

硬膜下出血 subdural hemorrhage
 硬膜とクモ膜との間に出血したもの。出血が一定量に達すると血腫を形成し、「硬膜下血腫」となる。硬膜下血腫と同義語に用いられる場合もある。

硬膜下水腫 subdural hygroma《外水頭症》
 硬膜とクモ膜の間に髄液が貯留した状態。大部分は外傷によりクモ膜が断裂し、髄液が一方向性に流出して硬膜下に貯留したものである。交通性水頭症の「外水頭症」と同義語だが、硬膜下エフユージョンを含めて「硬膜下液貯留」と一括されることが多い。被膜で包み込まれた場合を「硬膜下水腫」とよんで区別することもある。頭蓋内圧亢進症状を呈することがある。

硬膜下膿瘍 subdural abscess
 硬膜下腔に膿瘍を形成したもの。脳膿瘍の1/5〜1/4程度の頻度である。副鼻腔炎、中耳炎、乳様突起炎に続発する場合が多い。急激な炎症症状、意識障害、髄膜刺激症状、痙攣発作などの臨床症状を呈することが多い。脳膿瘍と比較し巣症状は少ない。うみが、大脳鎌や小脳天幕に沿って存在すると、排膿しにくく難治性である。

硬膜上(外)腔 extradural space
 脊髄硬膜(内板)と、黄靱帯および骨膜(脊髄硬膜外板)との間にある腔をいう。軽い陰圧を呈し、脂肪と血管に富む、粗い網状組織からなる。

硬膜茸(ジョウ)状腫 fungi durae matris
 開放性脳損傷で頭蓋内圧亢進を伴うとき、骨と硬膜の欠損部から脳実質が脱出し、茸状突出部を形成している状態。多くは自然に消退する。脳浮腫と感染が共存し、脱出した脳が絞扼〔コウヤク〕されると壊死に陥り、汚い茸状となり急性期には拍動する。慢性期には肉芽組織におおわれて腫瘍組織様として存在する。 

硬膜静脈洞 sinus of dura mate
 脳硬膜の特別な場所において、外側の骨膜層と内側の髄膜層との間に生じた静脈腔。脳に分布する静脈はすべて硬膜静脈洞に注ぎ、内頸静脈に集められる。内面は血管内膜の続きにあたる内皮細胞でおおわれるが、平滑筋からなる中膜を欠く。

硬膜剪刀 dura scissors
 開頭手術時に硬膜を切開するための剪刀〔セントウ〕で、刃の部分を弯曲させ、硬膜下に挿入する刃の先端を鈍にして、直下に接する脳組織への損傷を避けるように工夫されている。

硬膜動静脈奇形 dural arteriovenous malformation
 硬膜に分布する動脈と静脈・静脈洞との間に形成された短絡血管奇形で、多くは後頭蓋窩〔カ〕と中頭蓋窩に発生し、血管雑音、眼球突出・結膜うっ血、頭蓋内圧亢進症状などをきたす。
   →硬膜動静脈瘻(フィステル)

硬膜動静脈瘻(フィステル) dural arteriovenous fistula
 硬膜動脈を流入動脈とし静脈洞を流出静脈とする動静脈奇形の一つ。好発部位は海綿静脈洞と横ないしS状静脈洞である。海綿静脈洞部に発生するものは、特発性の「頸動脈海綿静脈洞瘻」(CCF)として知られ、眼球突出、複視、結膜充血、眼窩部雑音などを主徴とする。一方、横ないしS状静脈洞部に発生するものは、耳鳴を主訴として発見されることが多い。いずれの場合も瘻〔ロウ〕を通過する血流が多いと、脳内の静脈に灌流障害をきたし、脳浮腫や脳出血を起こすことがある。治療は従来、外科的摘出術が行われたが、最近では血管内手術による流入動脈と、瘻の人工的栓塞術がしばしば用いられる。

硬膜内血腫 intradural hematoma
 硬膜内に出血が起こり(硬膜内出血)、それが一定量に達し血腫を形成した状態。外傷性と非外傷性があり、血腫の存在部位により、(1)「硬膜下血腫」、(2)「脳内血腫」に大別される。「クモ膜下血腫」「脳室内血腫」も含まれる。

硬膜内出血 intradural hemorrhage →硬膜内血腫

硬膜内髄外腫瘍 intradural extramedullary tumor
 脊髄硬膜内に発生する脊髄腫瘍のうち脊髄より外の組織から発生する腫瘍で、「神経鞘腫」「髄膜腫」などが主なものである。脊髄を徐々に圧迫し、背部痛(あるいは根性痛)を訴えるようになり、腫瘍発生レベル以下の知覚鈍麻、運動障害を示してくる。神経鞘腫のX線による脊髄造影検査では、造影剤が腫瘍を囲む陰影を示すので、髄内腫瘍との鑑別上の要点となる。


■ サ 行・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

坐骨神経痛 ischialgia
 坐骨神経の走行に沿って、腰・殿部から下肢に激しい疼痛をきたすもの。原因として、従来より、アルコール、砒素、鉛、糖尿病、痛風、梅毒などの中毒・代謝・感染性過程、仙腸骨関節または脊椎の関節炎、股関節炎、坐骨神経鞘を含む筋膜・筋に波及する線維組織炎、変形性骨炎、第5腰椎の仙骨化、脊椎カリエス、脊椎腫瘍、骨盤腫瘍、炎症性の神経炎などがあげられていたが、腰椎の椎間板ヘルニアが重要視されており、原因の80%を占めるといわれる。疼痛は殿部から大腿後面、下腿外側および後、足の外側にかけてみられ、下肢の運動、咳、怒責〔ドセキ。息をとめた状態〕により増強する。神経走行に沿って圧痛を示すものもあり、アキレス腱反射の減弱ないし消失、下肢の知覚障害、ラセーグ徴候などが症例により若干の差をもってみとめられる。原因診断と原疾患の治療が重要である。

坐骨神経痛性側弯 sciatic scoliosis
 腰椎椎間板ヘルニアなどが原因として起こる坐骨神経痛による側弯〔ソクワン〕。臥位をとると消失する特徴があり、他の側弯症と鑑別できる。

坐骨神経ブロック sciatic nerve block
 坐骨神経は腰髄L4〜仙髄S3由来の線維を含み、仙骨神経叢から分かれて大坐骨孔を通過し、梨状筋におおわれながら梨状筋下孔から骨盤を離れ、坐骨結節と大腿骨大転子間を通り大腿後面を下行して膝窩に至る。手技はラバト法が一般的である。患側を上にした側臥位で、膝関節内側を床に置くようにして他側下肢は伸展させる。上後腸骨棘と大転子を結ぶ線の中点から垂直に3〜4cm下方が刺入点となり、3〜5cmの深さに坐骨神経が走る。皮膚に直角に刺入し放散痛〔強い刺激が作用点の周辺にも刺激作用・痛みを起こすこと〕が得られたら局麻剤15〜20m1を注入する。なお、放散痛は必ず得られなければ有効ではない。下腿の手術、特に膝関節以下の手術に応用される。大腿神経ブロックなどと併用することによってさらに効果が得られる。

サドル型感覚消(脱)失 saddle-b1ock anesthesia《サドル型知覚麻痺》
 馬尾神経の障害では馬尾症候群が出現するが、特に下部馬尾神経に限られた障害では下肢は侵されることなく、肛門部、会陰部、外陰部、仙骨部などに、限局した皮膚表面感覚障害がみられる。この領域はちょうど鞍に乗ったときにあたる部分で、同部の外傷、たとえば高所から落ちたときなどに起こる。同時に膀胱・直腸障害、性機能障害などが起こる。

四肢マヒ Quad(quadriplegic/tetraplegic) 
 下肢の両方および上肢の一部または全部に完全マヒをみとめる状態。両上肢および両下肢に筋力低下または不完全なマヒをみとめる状態。

失調〔性〕対麻痺 ataxic paraplegia
  1. 脊髄の側索と後索の硬化により起こる症候群で、梅毒性脊髄炎の一型とみられている。症状は後索硬化による失調と側索硬化による反射亢進を伴う痙性歩行であるが、全体像として、痙性であるか運動失調的であるかは脊髄のどの場所がより多く侵されたかによる。
  2. 亜急性連合性脊髄変性症のこと。
失調性歩行 ataxic gait
 スタンスが広く不規則不安定な歩行で、足を上げるリズムやその高さは不規則、?幹も前後左右に不規則に動揺する。脊髄後索や末梢神経の病変による深部知覚障害性のものと小脳障害性のものに大別できるが、一般に前者を意味し、後者は小脳性歩行とよばれる。障害が強いときには、下肢を異常に高く上げ、これを前に放り出し、ぶつけるように踵を地面につけ、ついで足尖をピシャリと床につける。眼を足下に注ぎ深部感覚障害を代償し、閉眼時には障害が著明に増強する。

褥瘡 bedsore
 長時間臥床している時に、骨の突出した部位の皮膚および軟部組織が、骨と病床との間で長時間の圧迫のために循環障害を起こし、壊死した状態。毛細血管圧は25-32mmHgとされ、これより高い圧迫が加わると血行は停止する。血行停止が長時間、あるいは繰り返し起こると組織損傷が生じる。潰瘍化すると非常に治療が困難になるので、予防が大切である。そのためには、@頻回の体位交換(原則的には2時間ごと)、Aスキンケアー(清拭、アルコール清拭)、B好発部位へのクッション使用、C栄養管理、を行う。創傷治療に対する近年の知見では、創を乾燥させ痂皮形成をうながす処置は治癒を遅らせるものであり、何らかの方法で創を密封し滲出液を創内に貯留させて利用し、湿潤環境を保つほうが治癒が早いと判明した。円座は周囲が圧迫されることにより中心部の血行を増悪させる危険があり、使用すべきでない。

自律神経 autonomic nerve《植物神経、臓性神経》
 体の運動や識別的知覚ではなく、内臓の運動や分泌、内臓の知覚を司る神経。内臓の運動や分泌などを司る神経は、さらに交感神経、副交感神経という拮抗する二つの神経系に分けられる。交感神経幹は脊柱の両側を走り、椎間円板の位置にほぼ一致して(一部では数個が融合する)交感神経節をもつ。副交感神経の代表は延髄から出る「迷走神経」と、仙髄から出る「骨盤内臓神経」である。副交感神経は体にエネルギーを蓄えるように働き、交感神経はエネルギーを発散するように働く。自律神経の中枢は間脳の視床下部にある。

自律神経過反射
 異常な発汗や頭痛、血圧の上昇、徐脈、顔面の紅潮などが現れることがある。これは尿や便が充満した結果、自律神経が過敏に反射した結果である。このようなときは血圧が200〜250mmHgに達することもある。これだけ高くなると発作性の脳出血を起こしてもおかしくない。膀胱が原因になっていることが多く、ただちに導尿を行うことが必要になる。

自律神経作用薬 autonomic drug
   →交感神経〔様〕作用薬、副交感神経〔様〕作用薬

自律神経失調〔症〕 autonomic imbalance《植物神経失調、自律神経緊張異常症、自律神経不安定症》
 EpingerとHessは自律神経系は交感神経系と副交感神経系が完全に拮抗して機能しているとの考えから、自律神経系の機能障害を「交感神経緊張症」と「副交感神経緊張症」に二分した。
 しかし、交感・副交感神経系がともに緊張しやすい人、不安定な人、また臓器により両者の緊張状態の逆転する人があり、Bergmannは両群を「自律神経緊張異常者」と名づけた。今日ではこれを自律神経失調症という。臨床的には種々の自律神経系の愁訴があるが、それに値する器質的異常が見出せない。また精神神経症、心身症との鑑別も困難な場合が多く、この三者が独立した疾病であるかどうかも不明である。そのため治療は、自律神経系に対する治療とともに、心因の解明など精神医学的治療を必要とすることもある。
   →不定愁訴症候群

自律神経性緊張 autonomic nervous tone
 安静時においても自律神経系の効果器、たとえば血管平滑筋は、ある程度の緊張を保っている。節前節後線維は、通常0.1〜5Hzの低頻度で放電している。このような安静時活動の原因はよく知られていないが、中枢神経系への求心信号と、中枢ニューロンの自然放電によるといわれている。

自律神経反射 autonomic nerve reflex
 外界の変化に対応して、生体の内部環境を一定に保つためには様々の調節機構が働いている。この調節機構のうち神経系でなされるものの大部分は自律神経を介しており、それは各種の自律神経系の反射の集合と考えられる。たとえば寒冷にさらされると、末梢動脈を収縮し、立毛を起こして熱の放散を防ぐ。これらはいずれも自律神経の中枢を介する反射で行われ、このような反射を自律神経反射という。自律神経系は解剖学的、生理学的に交感・副交感神経系に大別され、両者は拮抗的あるいは協調的に作用しつつ、生体を維持していく。さらに反射の刺激として、恐怖や不安などの情緒的な精神活動も関与しており、これらも広い煮味での自律神経反射に含まれる。

自律性排尿 autonomous micturition
 下位排尿反射中枢である仙髄と、反射弓の知覚・運動両経路の障害による膀胱の神経脱落に至った最終的な排尿形式。脊髄円錐、馬尾以下の障害で、「核型」「核下型神経因性膀胱」にみられる。蓄尿は膀胱容量に応じた内圧で膀胱を拡張させ(低コンブライアンス膀胱)、膀胱利尿筋の伸展性はなく、膀胱充満感は腹壁の緊張増加などで代償される。排尿状態は腹圧を加える(Val. salva法、バルサルバ法)か、手で腹壁から膀胱部を圧迫する(Crede法、クレーデ法)ことで膀胱内圧を高め、尿道抵抗に打ち勝つようにしているが、おおむね外括約筋部の抵抗も減弱しているので可能となる。

自律〔性〕膀胱 autonomous bladder 《非反射〔性〕膀胱》
 随意反射を経ずに排尿を行う膀胱をいう。仙髄排尿中枢、あるいはそれより末梢の骨盤神経損傷の慢性期にみられる膀胱機能異常。膀胱内圧測定では、排尿筋反射は消失し、膀胱充満に比例して内圧の上昇を示す低コンプライアンス〔膨張性に乏しい〕膀胱となる。患者は腹圧排尿で自排尿可能な場合が多いが、残尿が多く、間欠的自己導尿がしばしば必要である。尿失禁は溢流性失禁またはストレス尿失禁のタイプをとる。尿管理を怠ると、膀胱尿管逆流症など上部尿路に影響を及ぼすに至る。 

侵害刺激と侵害受容線維
 体に傷害が生じる激しい刺激を「侵害刺激」、その刺激を感じる皮膚の小さな器官を「侵害受容器」、その受容器で感じた刺激を脊髄に伝える神経線維は「侵害受容線維(感覚神経の一種)」と言う。

神経移植〔術〕 nerve transplantation
 末梢神経に欠損が生じた場合に、他の神経を用いて橋渡しする方法。用いる神経により、自家・同種・異種神経移植があり、後二者は免疫的な面が解決されていない。移植方法は細い皮神経を数本用いる索移植、顕徴鏡下に束レベルで縫合する〔神経〕線維束移植、太い神経幹を用いる神経幹移植、有茎神経移植などがある。用いられる皮神経は腓腹神経〔ふくらはぎにある〕が多く、そのほか大腿外側皮神経、前腕内・外側皮神経などである。条件がよければ60〜80%の回復が期待できるが、端々縫合〔切断面同士の縫合〕の成績より劣る。

神経因性膀胱 neurogenic bladder
 排尿を司る神経(下腹神経、骨盤神経および陰部神経)とその中枢のいずれでも障害されて、膀胱の機能異常をきたした状態の総称。現在まで最も広く用いられてきた分類法はLapidesの分類で、これは膀胱内圧測定の結果を中心に臨床所見を加味したもので、無抑制膀胱、反射性膀胱、自律性膀胱、知覚麻痺性膀胱、運動麻痺性膀胱の5型に分類される。最近は排尿機能検査の所見を、膀胱機能、尿道機能に分けて分類した国際コンチネンス協会の分類が用いられることが多い。

神経栄養性萎縮 neurotrophic atrophy
 各種の神経疾患により主として骨格筋に生ずる萎縮で、一部には運動神経麻痺などによる無為萎縮も関係するが、血管運動神経の障害による筋組織への栄養供給の不足が主な原因と考えられる。

神経筋接合部 neuromuscular junction《終板》
 脊髄前角細胞から出た運動神経が筋細胞との接合部で形成するシナプスをいう。
神経線維はシナプス直前でミエリン鞘を失い、分枝して神経終末となり膜を介してシナプス間隙と接する。シナプス間隙は最狭部で200〜300Å〔オングストローム〕の幅の神経・筋細胞間の間隙で、この間には原形質による連続性はみとめられない。神経終末には神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)を含んだ小胞が存在し、シナプス後膜の筋細胞側(終板)のひだにはACh受容体が大量に存在する。1個の受容体にはAChが1〜2個結合するといわれている。刺激が神経終末に到着するとカルシウムチャネルが開き、Ca2+が細胞外から細胞内へ流入し、これによりシナプス小胞のAChが神経終末から遊離される。AChはシナプス間隙を拡散して終板の受容体に結合する。終板ではNa+に対する膜透過性が亢進し、Na+の細胞外から内への流入が起こって膜の脱分極を生じる。終板電位の発生は筋膜の活動電位を発生させて筋収縮を引き起こす。終板を脱分極させたAChは、受容体周辺に存在するコリンエステラーゼにより酢酸とコリンに加水分解される。

神経筋伝達 neuromuscu1ar transmission《終板伝達》
 運動神経末端から骨格筋の終板への興奮伝達をいう。興奮性シナプス伝達と同じで、伝達物質はアセチルコリン。終板部のアセチルコリン受容体はニコチン受容体である。アトロピンでは遮断されず、クラーレや高濃度ニコチンで遮断される。

神経膠〔細胞〕 neuroglia〔cell〕《膠細胞、グリア[細胞]、神経支持質》
 ニューロンとともに神経組織の二大構成要素。中枢膠細胞には〔脳室〕上衣細胞、星状膠細胞、希突起膠細胞、小膠細胞があり、末梢神経膠細胞には神経節膠細胞(外套細胞、衛星細胞)と鞘細胞(シュワン細胞)がある。

〔神経〕膠腫 glioma《グリオーム、神経膠細胞腫、グリア細胞腫》
 髄上皮から分化してくる神経系の細胞(グリア細胞、神経細胞、松果体実質細胞)から発生する腫瘍の総称。
グリア細胞系の腫瘍;(1)星細胞腫系、(2)乏突起細胞腫系、(3)上衣腫系、(4)膠芽腫。
神経細胞系の腫瘍;(1)髄芽腫、(2)髄様上皮腫、 (3)神経芽細胞腫、(4)神経節性神経腫と神経細胞神経膠腫。
松果体実質細胞系の腫瘍;(1)松果体細胞腫、(2)松果体芽細胞腫。
 発生頻度は星細胞腫系腫瘍が最も多く、ついで膠芽腫、上衣腫系、髄芽腫、乏突起細胞腫系の順序。 以上で神経膠腫全体の80〜90%を占める。神経膠腫が頭蓋内腫瘍全体に占める割合は30〜40%。

神経根圧迫 nerve root compression
 脊髄神経根が腫瘍、靱帯骨化、硬膜肥厚、軟骨変形、椎間板ヘルニア、外傷などで圧迫を受けて生ずる根症状で、脊髄前根あるいは脊髄後根の両者、あるいはいずれかに限局する場合がある。脊髄症状と異なり、原則として錐体路、後索、脊髄視床路などのロングトラクト・サインはない。後根に限局する場合、分節性知覚障害が起こり、ある分節に限局した知覚障害、根痛が生ずる。前根の場合、その支配筋の脱力と萎縮、線維束攣縮がみられる。

神経根症状 radicular syndrome
 脊髄神経根の圧迫あるいは炎症などによって起こる運動・知覚障害。前根の障害が強い場合、その支配域の運動障害、神経根麻痺、筋萎縮がみられる。後根の障害が強い場合、支配域に一致した神経根痛、知覚鈍麻がみられる。

〔神経〕根痛 root pain《根神経痛、根性痛》
 脊髄あるいは脊椎腫瘍などの脊髄圧迫性病変による脊髄神経後根の圧迫または破壊によって生ずる激しい神経痛様疼痛。疼痛は後根の支配領域に限局し、安静臥床によっても軽快せず、咳、排便時のいきみなど、脊柱管内圧を上昇させるような原因で増強する。疼痛部位に一致して知覚過敏をみとめることがあるが、神経痛と異なり、圧痛点はない。神経根の伸展で疼痛を起こすラセーグ徴候〔後出〕が陽性になることが多い。

神経根麻痺 radicular paralysis《根性麻痺》
 脊髄神経根の傷害によって起こる麻痺で、脊髄膜、脊椎、関節、または脊柱の靱帯の病変や外傷によって起こる。麻痺は罹患神経根の支配域に一致して、その支配域のみ(髄節性)に現れるのが特徴である。狭義の神経根麻痺は前根(運動性)の麻痺をさし、支配筋の弛緩性麻痺と筋萎縮がみられる。広義には後根の麻痺も含まれ、支配域の知覚鈍麻を生じ、連続2根以上の麻痺では知覚脱出〔感覚消失〕となることがある。

神経細胞 nerve cel1《ニューロン》
 神経細胞体と軸索および樹状突起よりなる。樹状突起の数により、[偽]単極、双極、および多極神経細胞に分けられる。神経細胞体には、核のほかに色素好質、 ゴルジ装置、滑面小胞体、糸粒体、水解小体、神経細糸、微細管などがあり、これらは太い樹状突起内に侵入する。軸索には、これらのうち色素好質とゴルジ装置が存荘しない。
原則的に、樹状突起と神経細胞体はその表面が刺激の受容野となり、軸索は興奮を終末に向けて伝導する。軸索終末において、シナプス小胞から神経伝達物質が放出され、隣接する細胞に化学刺激が伝達される。
   →神経節細胞

神経終末 nerve ending《終末球、シナプス終末》
 軸索の先の盲端部。髄鞘を欠く。微細管、神経細糸、糸粒体を含む。シナプス小胞、アクチン細糸をいれたシナプス前終末球のほかに、シナプス小胞をもたない知覚性自由神経終末や、感覚細胞と接したシナプス後終末がある。

神経障害性疼痛 ニューロパシックペイン nueropathicpain〔ニューロパシー痛〕
 外傷、手術、帯状疱疹などで神経が損傷を受け、その後遺症として痛み、しびれ、灼熱感などが数ヶ月以上続く状態。手足の大きな神経が損傷された場合は「カウザルギー」、神経の損傷が明らかではないが交感神経活動の亢進が関係している場合は「反射性交感神経性萎縮(異栄養)症。

靱帯骨化症 ossification of ligaments
 本来靱帯であるべき部位に異所性の骨形成のみられる疾患。 病理像は靱帯基質の過形成と骨化である。靱帯骨化は骨盤部、足部、肘部などにも生じるが、脊柱が最も靱帯の骨化傾向が強く、棘上・棘間靱帯、前縦靱帯、後縦靱帯、黄色靱帯に骨化が出現しやすい。後二者は圧迫性脊髄症を示し、椎弓管拡大術や椎弓切除術といった治療の対象となる。
 同一個体に強直性脊椎骨増殖(肥厚)症や後縦靱帯骨化症、黄色靱帯骨化症がしばしば合併することから、全身的な骨化因子の存在が想定される。糖代謝、Ca代謝、ホルモン、さらに靱帯中のどの成分と関係して過形成や骨化誘導が生じるのかが注目されている。

錐体外路  extrapyramidal tract《錐体外路〔運動〕系》
 脊髄に向かって大脳皮質から下行する運動経路のうち、延髄錐体を通過する経路を「錐体路」というのに対し、それ以外の下行性運動経路を錐体外路という。大脳皮質から尾状核・淡蒼球などの基底核へ、基底核から中脳の赤核・網様体・前庭神経核などへとつながり、さらに中脳の諸核からは脊髄へと運動経路が下行する。これらの下行性経路とともに起始核をもまとめていうため、錐体外路系という言葉も用いられる。錐体外路系の障害によって、不随意性の運動が自発するようになるとともに、随意運動も巧みに行われにくくなる。 

錐体外路徴候 extrapyramidal sign《錐体外路性症候群》
 筋力低下はあるが麻痺はない。筋緊張の異常(亢進、低下)、運動低下(無動)や過剰(異常運動)が組み合わさって出現する。

錐体路 pyramidal tract《皮質脊髄路、錐体路系》
 大脳皮質の前中心運動野や後中心運動野、頭頂連合野から出発し、延髄錐体を通過して脊髄に下行する運動性経路をいう。随意運動の指令を伝える。一側における錐体路の損傷によって反対側半身に随意運動麻痺が起こるとともに、四肢の筋緊張が変化し、バビンスキー反射〔後出〕のような異常反射が起こる。 

錐体路徴候 pyramidal signs
 錐体路、すなわち上位運動ニューロン障害に際しみられる種々の徴候の総称。(1)筋萎縮を伴わない痙性麻痩、(2)深部反射の亢進、(3) バビンスキー徴候の出現、(4)腹壁反射の消失、などがあげられる。このうち(1)と(2)は錐体外路障害の関与によるとされ、純粋な錐体路のみの障害の徴候は、(3)と手指の巧緻運動の障害であるといわれる。

星状神経節ブロック stellate ganglion block:SGB
 第7頚椎から第1胸椎の前面に存在する交感神経節(星状神経節)へ局所麻酔剤を注入する治療法。顔面、頭、頸部、上肢などの痛みや血流傷害に有効である。

脊索腫 chordoma
 比較的稀な脊椎の腫瘍で、椎問板髄核内に遺残した脊索および、おそらくその椎体内へ迷入したものの腫瘍性増殖によるもので、軸骨格の上下端、すなわち頭蓋底斜台と仙尾骨部に最も多い(全症例の90%)。腫瘍の発育は緩やかで、転移(悪性脊索腫)も稀ではあるが、局所の破壊によって早晩死に至る。どの年齢にも生じうるが、中年以上の男性に多い(女性の2〜3倍)。

脊髄 spinal cord
 脊椎動物の脳の延髄に続き脊柱管の中を下る細長い円柱状の器官。脳とともに中枢神経系を形成する。中軸には脳に続く中心管が通り,これを囲んで灰白質があり,その外側には白質がある。
横断面はほぼ横楕円形で,灰白質はH字形を呈し,左右の2脚の前方に突出した部は前角,後方に突出した部は後角と呼ばれ,これらによって白質は前索,側索,後索に分かれる。
 前角および後角からは,体節に応じてそれぞれ前根および後根という神経繊維束が出ており,脊髄外で両者は合して脊髄神経となり,相当した椎間孔から出る。
脊髄は頸(けい)部および腰部では太く,頸膨大および腰膨大と呼ばれ,末端は円錐状をなし,終糸という細糸が付く。
 脊髄の長さは成人で40〜45cmで,第1〜第2腰椎の高さで終わる。そのため,まだ椎間孔を出ないで脊柱管の中を下行する下位の脊髄神経は,終糸のまわりを囲み,馬尾と呼ばれる房(ふさ)状をする。
 脊髄は脳と脊髄神経との間の神経伝導の役割を果たす。前根と前角は運動機能にあずかり,後根と後角は知覚機能に関与し,白質に含まれる上行性・下行性の脊髄伝導路により脳との連絡が行われる。また,脊髄には各種の腱(けん)反射や伸張反射(骨格筋を急速に伸ばすときに起こる筋収縮)などの反射回路があるほか,発汗,血管運動,射精,勃起などの各種自律反射中枢を有する。

脊髄神経 nervi spinales
 脊椎動物の脊髄から出る末梢神経の総称。脳神経の対。左右対称に前根,後根として出たものが椎間孔を出て合して1対の脊髄神経となる。ヒトでは31対あり,脊椎の区分に応じて頸(けい)神経(8対),胸神経(12対),腰神経(5対),仙骨神経(5対),尾骨神経(1対)と呼び,前枝と後枝に分かれてほぼ体節的に分布する。後根には椎間孔の中で紡錘状の神経節が付随するが,これは知覚神経細胞の所在部位で,脊髄神経節と呼ばれる。

脊髄圧迫 spinal 〔cord〕compression
 脊髄ならびに神経根を圧迫する病変は脊椎・脊髄の腫瘍のほか、硬膜外血腫、硬膜外膿瘍、椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、後縦靱帯骨化症、外傷その他の原因による脊椎骨骨折などがある。圧迫の部位、程度に応じ、局所性、遠隔性の症状を呈する。

脊髄炎 myelitis
 本来脊髄実質の炎症を意味するが、実際には炎症以外の種々の原因による脊髄障害をも広く含めてきている。しかし最近では、中毒性、代謝性、栄養障害性、血管性、圧迫性、外傷性などの非炎症性の脊髄実質障害は一括して「脊髄症」とよばれ、脊髄炎と区別されるようになった。
 臨床症状や経過からみた脊髄障害の様式により、横断性、上行性、広範性、部分性、散在性あるいは播種性、半側障害などの区別がなされることがある。
 また発症様式により急性、亜急性、慢性に分けられる。
随伴する組織病変により、脊髄膜炎を伴う「髄膜脊髄炎」、脳症状を伴う「脳脊髄炎」、多発性神経根炎を合併した「脊髄根神経炎」などの用語が用いられる。
 脊髄炎の原因には、ウイルス、細菌、スピロヘータ、真菌などによる一次感染性のもの、発疹性感染症後のもの、非発疹性ウイルス疾患による傍感染性のもの、ワクチン接種後のもの、特発性ないし原因不明のものなどがあげられる。

〔脊髄〕円錐〔体〕症候群 conus syndrome
 第3仙髄から尾髄までを「脊髄円錐部」とよび、この障害では、自律性神経因性膀胱による横溢性尿失禁、肛門括約筋は弛緩性となり、便失禁、性的不能、第3仙髄以下の殿部にみられるサドル型感覚消失〔陰部に限定した皮膚感覚障害〕、肛門反射の消失などをきたすが、下肢には運動および知覚麻痺はみられず、アキレス腱反射は保たれる。なお、第4腰髄から第2仙髄までは「上円錐部」とよばれ、この部の障害では下肢の筋力低下や知覚障害を生じ、膝蓋腱反射は保たれるがアキレス腱反射は消失、膀胱障害は反射性膀胱の形をとる。

脊髄円錐〔部〕 conus medullaris
 脊髄の下端。この部からの神経根の集合を馬尾cauda equinaといい、脊髄軟膜は結合組織となって下方へ延長し、終糸として硬膜腔下端と連続している。

脊髄横断障害 transverse myelopathy《横断脊髄障害》
 血行不全、圧迫または外傷などにより、脊髄髄節の機能が、その横断面すべてにわたり障害されることをいう。障害を受けた脊髄髄節以下の運動知覚麻痺と膀胱直腸障害よりなる。
運動麻痺:仙髄損傷では足、足趾。腰髄損傷では下肢、胸髄損傷では体幹筋。頸髄損傷では上肢の運動障害が加わる。外傷の場合、受傷直後は弛緩性麻痺(脊髄ショック)の状態であるが、6週を過ぎると痙性麻痺に移行する。
(2)知覚障害:麻痺の上界に帯状の知覚鈍麻帯(脊髄横断性知覚鈍麻)または知覚過敏帯を有し、それ以下のすべての知覚の脱失を示す。

脊髄横断性知覚鈍麻 sensory disturbance caused by transverse spinal lesion
 脊髄横断障害の際にみられる症状。急激な完全横断障害では、初期には脊髄ショックの状態を呈する。すなわち損傷部より少し上位まで脊髄機能の停止が起こるため、真の障害部よりいくぶん高位の髄節より以下の運動麻痩、知覚麻痩となるが、経過とともに麻痺高位は下降する。この知覚障害は左右対称性であり、上限は1髄節内外の知覚鈍麻帯を経て、正常知覚域に移行する。

脊髄灰白質炎=灰白髄炎

脊髄灰白質症候群 gray spinal syndrome
 脊髄の中心管の周辺の灰白質が侵されるために起こる症候群。前灰白質が侵されると、支配筋の筋緊張低下(筋萎縮)と腱反射の消失を伴う弛緩性の運動麻痺をきたす。後灰白質が侵されると、脊髄視床路が障害されるため痛覚・温度覚の脱失をきたす。後索は障害されないため、運動覚、触覚、位置覚は保たれ、解離性知覚障害〔体性知覚のうち一部が傷害され、他種類は正常に保たれる〕をきたすことになる。脊髄外傷による出血や脊髄空洞症などでみられる。

脊髄間欠性跛行〔セキズイカンケツセイハコウ〕 intermittent claudication of spinal cord
 安静時には無症状で、歩行時にのみ下肢の脱力や疲労感を伴う症候をいう。脊髄動脈硬化症がその原因と考えられている。ほかに間欠性跛行〔びっこを引く〕をきたす疾患として、大動脈から腸骨動脈の閉塞によるものや馬尾神経性のものがあり、鑑別を要する。

脊髄空洞症 syringomyelia
 脊髄内に膠細胞による組織で分けられた細長い空洞が存在するもので、臨床的には知覚解離(温痛覚は失われるが、触覚は残っている)がみられる。現今では「水脊髄症」と同じものとして扱われている。

脊髄空洞症型知覚解離 syringomyelic dissociation
 脊髄空洞症にみとめられる知覚解離の一タイプ。温痛覚は障害されるが、深部感覚と識別性の触覚は正常に保たれる。これと同型の知覚解離は、脊髄腫瘍、脊髄内出血でもみとめられる。

脊髄クモ膜炎 spinal arachnitis
 クモ膜自体は急性炎症性病変には関与しがたいため、主に慢性脊髄クモ膜炎として臨床上の重要性をもつ。すなわち先天奇形、腫瘍、外傷、椎問板病変に合併したり、あるいは細菌性ないしウイルス性感染、手術操作、髄腔内薬物注入やクモ膜下出血に続発してクモ膜の線維性肥厚および軟硬膜との癒着をきたす。「限局性」および「び漫性癒着性」の2群に分けて考えられている。前者では局所空間占拠性病変として神経組織の圧迫や髄液通過障害が、また後者では全体的な脊髄血行障害が問題にされる。特に前者ではクモ膜?腫の合併が多いといわれる。診断には脊髄造影が有用である。手術的あるいは空気注入による癒着剥離が試みられる場合がある。

脊髄クモ膜下出血 spinal subarachnoid hemorrhage
 脊髄クモ膜下腔への出血の総称で種々の原因により起こる。治療上最も大切なのは、脊髄動静脈奇形などの脊髄血管異常に由来する出血で、他に脊髄出血、脊髄腫瘍、出血性素因、外傷、腰椎穿刺などに随伴するものもある。また頭蓋内出血(クモ膜下出血など)の際に出血が脊髄クモ膜下腔に及ぶことも多い。症状は背痛、腰痛、頭痛、項部強直、ケルニッヒ徴候〔髄膜刺激症状の1徴候〕、バビンスキー徴候〔最も鋭敏な病的反射〕などであるが、頭蓋内出血と比べて頭痛が軽度であることが多い。一方、頭蓋内クモ膜下出血で脳内病変(動脈瘤、動静脈奇形など)が発見できない際には、脊髄クモ膜下出血を疑う必要がある。

脊髄血管芽〔細胞〕腫 spinal hemangioblastoma《脊髄血管内皮〔細胞〕腫》
 脊髄は小脳に次ぐ血管芽〔細胞〕腫の好発部位である。特に頸髄および胸髄に多く、半数以上は髄内に発生するという。組織学的には小脳のそれと変わらず、良性腫瘍に分類される。ヒッペル・リンダウ病〔遺伝的な網膜血管腫と小脳・延髄・脊髄の単発/多発性血管芽腫の合併したもの〕の患者に高率に合併する。また脊髄空洞症の合併が多い点が注目される。診断には脊髄血管撮影が有用である。手術で全摘出を試みる。

脊髄血管奇形 spinal vascular malformation
 脳血管奇形と同じく胎生期の血管網の発生・分化過程の異常に基づくもの。現在、一般的には血管芽〔細胞〕腫など真の腫瘍を除き、毛細血管拡張症、静脈奇形、動静脈奇形、ときに海綿状血管奇形がこの範疇に入れられる。これらがCobb症候群、亜急性壊死性脊髄炎、〔遺伝性出血性毛細血管拡張症の一病変としてみられることもある。動静脈奇形には硬膜動静脈奇形を含め、いろいろの型のものがみられる。

脊髄血管(行)障害 vascular disease of spinal cord
 脊髄の血流は、前2/3が前面正中を縦に走る1本の前脊髄動脈から、後1/3が背面の傍正中溝を縦走する2本の後脊髄動脈からきており、後者は左右間の吻合もあるので循環障害も稀である。脊髄血管疾患は脳血管疾患に比して稀なものだが、障害部位としては前脊髄動脈領域のものが多く、後脊髄動脈のものはさらに稀。また横断性に侵されるもの、灰白質、特に前角に主として障害を示すものもある。

脊髄後根神経節 dorsal root ganglion〔DRG〕
 脊髄の近くにあり、その中にある神経細胞から出た枝は、一方は脊椎へ、一方は皮膚や手足へ連結して、感覚の伝導を調整する。水痘・帯状疱疹ウィルスはここに潜伏して、体調が悪化して免疫能が低下した時に増殖し、皮膚に疱疹(水ぶくれ)を形成し、痛みを起こす。

脊髄後索型運動失調 posterior co1umn ataxia
 脊髄後索病変により深部知覚が障害されて生じる運動失調。位置覚、運動覚などが障害されるため、運動のフィードバック機構が作動せず協調的な運動をスムーズに行えなくなる。位置覚障害を視覚で代償するので、閉眼時には失調が著しく増強されるのが特徴である。脊髄癆、後索切断術、連合性脊髄変性症、多発性パラミオクローヌス〔この疾患の存在は疑問視されている〕などでみられる。

脊髄硬膜外出血 spinal epidural hemorrhage
 なんらかの原因で脊髄の硬膜外に出血し、脊髄圧迫症状をきたすもの。胸椎に多い。出血源が不明なことが多いが、軽い外傷、腹圧を加えること、抗凝固剤の使用や血液疾患による凝固異常、脊髄血管奇形の破裂などが原因としてあげられている。症状は出血の程度と速度によるが、激烈な背部痛に始まり、数時間以内に対麻痺に移行するものが多い。診断はミエログラフィによりブロックをみとめることによる。治療は椎弓切除術と血腫除去術を行うが、予後は対麻痺発生後手術までの時間によって異なる。

脊髄硬膜下出血 spinal subdural hemorrhage
 脊髄硬膜下に種々の原因で出血を起こし、脊髄圧迫症状をきたすもの。硬膜外出血よりも頻度は少ない。外傷によるものが多い。脊髄圧迫症状が出現した例には、椎弓切除術などの減圧術が必要となる。 

脊髄交連切断〔術〕 commissural myelotomy
 一側の脊髄後角から対側の脊髄視床路に向かう痛覚線維が交叉する白(前)交連で障害されると、両側性の痛覚脱失を起こすが、触覚や運動知覚は障害しない。近年、顕微鏡手術の普及によって他の脊髄手術では効果が得にくい、直腸・会陰部など下半身の悪性腫瘍による正中あるいは両側性の頑痛に対して、両側のコルドトミー〔脊髄切除術〕より有利な点が見直されている。痛覚線維の一部を遮断するこの方法は、他の鎮痛手術と同様に良性疾患の疼痛では再発が起こるが、クモ膜炎、幻肢痛、末梢性神経炎などでも多年にわたる効果の報告がある。

脊髄挫傷 spinal cord contusion
 脊髄の構造的な損傷をさす。完全な硬膜と脊髄の離断を最高度の一次損傷とするが、多くは硬膜の断裂がなく脊髄の出血、浮腫などの受傷後の二次的損傷の程度により、離断から不完全離断の症状を呈する。受傷部のレベル以下の運動知覚麻痺、膀胱直腸障害、自律神経障害をきたす。

脊髄刺激 spinal stimulation
 脊髄の後角刺激が慢性の疼痛に対して効を奏することから、除痛の意味で用いられる脳神経外科的治療法。椎弓切除術により脊柱に電極板を置き、皮下に設置した高周波受信器と接続して刺激を与えて疼痛を和らげるが、最近は経皮的に、脊髄硬膜外に穿刺針を通して電極を置くようになってきている。→ゲートコントロール

脊髄視床路症候群 spino-thalamic syndrome
 脊髄視床路の障害によって起こる症候群で、痛覚および温度感覚の鈍麻あるいは脱失がみとめられる。脊髄視床路は身体の下部からの線維ほど外側を通り、外側から、仙髄、腰髄、胸髄、頸髄の順に層を形成しているので、髄外腫瘍と髄内腫瘍で感覚障害の発現様式が異なる。
 髄外腫瘍では外側の線維が侵されるので早期に下肢の温・痛覚障害が出現し、髄内腫瘍では外側に位置する仙髄領域は侵されにくい。触覚は一部後索を上行するので、脊髄視床路の障害のみでは侵されない。痛覚と温覚のみが障害され、深部知覚と触覚が保存される状態を解離性感覚脱失という。この症状は脊髄出血、脊髄空洞症、脊髄腫傷でみとめられる。

脊髄視床路切断(截)術 spinothalamic cordotomy《〔脊髄〕前側索切截術》
 脊髄視床路は一般には痛みを伝える主伝導路と考えられており、これを切截また電気凝固し、痛みを除く手術。主として悪性腫瘍などの頑痛の緩解に適用される。胸部・上肢の除痛に対しては頸髄位で、ふつう上部頸髄第1または第2頸部あるいは下部頸髄で行われ、近年、オープンコルドトミーより、電気凝固針による経皮的、定位手術方式がよく用いられる。術後呼吸障害に注意を要する。下半身の除痛に対しては胸髄位で、第2胸髄位付近で行われることが多い。両側同時切截は排尿障害や脊髄横断障害をきたしやすく、片側ずつ1〜2週間をおき、2髄節以上離して行うのがよいとされる。延髄位、橋・中脳位での脊髄視床路切截は術後合併症などの危険も高いことなどから最近ではほとんど行われない。

脊髄出血 spinal hemorrhage
 広義には脊椎管内への出血を総称する。出血部位により、(1)「脊髄硬膜外出血」、(2)「脊髄硬膜下出血」、(3)「脊髄クモ膜下出血」、(4)「脊髄実質内出血」(狭義の脊髄出血)に分ける。また出血機転により外傷性と非外傷性(特発性)に分類される。
 脊髄実質内出血は外傷に起因するものが多いが、特発性のものとしては血管奇形(脊髄動静脈奇形、動脈瘤、血管腫など)のほか血液疾患、抗血液凝固剤使用などが原因とされる。脊髄実質内への出血で、突発する背部痛と障害レベル以下の感覚消失、弛緩性対麻痺ないし四肢麻痺、直腸膀胱障害など重篤な臨床症状を呈する。強い自律神経障害をきたし、ショック状態となることもある。髄液は血性ないしキサントクロミー〔黄色〕で、CTスキャンにより診断されるが、状態により脊髄造影、脊髄血管撮影などによる出血源の究明がなされる。 

脊髄腫瘍 spinal cord tumor
 脊髄硬膜外と硬膜内に二大別され、硬膜内では髄内と髄外に分けられる。硬膜外のものは転移性が大部分を占め、主として癌の転移による脊椎を侵し脊髄を圧迫する。原発性は比較的少なく、脊索腫や巨細胞腫などがある。硬膜内髄外腫瘍は神経鞘腫、髄膜腫などがあり、髄内腫瘍は上衣腫、星細胞腫やその他の神経膠腫がある。 →硬膜外腫瘍、硬膜内髄外腫瘍

脊髄症 mye1opathy
 脊髄実質の障害のうち中毒性、代謝性、栄養障害性、血管性、圧迫性、外傷性などの非炎症性によるものを一括していい、炎症性の、いわば狭義の脊髄炎と区別して用いられる。

脊髄小脳変性症 spino- cerebellar degeneration
 小脳皮質、小脳求心路、体固有知覚路の変性に基づく運動失調を主症状とする疾患。原因は不明。慢性に経過し、多くは家族性または遺伝性に発症する。しぱしば他の神経伝導路や神経細胞群の変性を合併し、網膜色素変性症、視神経乳頭萎縮、筋強剛、錐体路徴候、筋萎縮、末梢神経障害など種々の症状を伴う。臨床像と病理像の相関の一致しないことも多く、脊髄小脳変性症の分類にはいまだに混乱がみられるが、一般に、脊髄型、脊髄小脳型、小脳型の3型に大別されている。

脊髄静脈瘤 spinal varicosity
 脊髄静脈系のうっ血と拡大をきたした状態。30〜60歳代の男性に多く、胸髄下部から胸腰髄移行部にかけて好発する。静脈瘤の拡大に伴い、脊髄の圧迫と循環障害による二次的な脊髄損傷をきたす。症状は根性痛や知覚障害などで、進行すると対麻痺をきたすこともある。ときに静脈瘤が破裂し。脊髄出血、脊髄クモ膜下出血を起こすこともある。診断はミエログラフィ〔脊髄造影〕により拡張・蛇行した血管をみとめることによるが、動静脈奇形との鑑別は、血管陰影が拍動と同期して変化しないことによる。治療は対症療法のほか、脊髄圧迫が高度な場合には椎弓切除、硬膜切開が行われる。
   →亜急性壊死性脊髄炎

脊髄神経後根切断〔術〕 posterior rhizotomy
 外科的除痛術の一つで全知覚の消失をきたす。筋力低下はないが、位置覚など固有感覚の消失により運動機能や排尿機能も障害されるので頸髄、腰髄には適せず、適応は随意運動に影響の少ない上部頸髄や胸髄レベルに限られる。痙性麻痺や不随意運動症の治療に試みられたこともある。

脊髄神経根炎 myeloradiculitis
 脊髄実質と神経根の両方の炎症の総称である。脊髄実質の障害により錐体路徴候、知覚障害を生じ、脊髄神経根の障害により筋萎縮、筋力低下、腱反射減弱などがみられる。髄液蛋白は増加することが多い。原因としては種々の感染症、中毒などがある。

脊髄振盪〔セキズイシントウ〕〔症〕 spinal 〔cord〕concussion
 脊柱に衝撃が加わった直後に起こる一過性の神経機能麻痺で、数秒〜数分、ときに数時間で元に復する。衝撃部位の局所症状、遠隔症状を呈する。肉眼的、顕微鏡的には、器質的障害がないか、あっても軽度である。急激な圧波の伝搬によるか、急激かつ極端な頸部の運動により脊髄が構造的な変化を生じない程度に圧迫され、一過性の脊髄の乏血または興奮、麻痺により生じるとされる。

脊髄性運動失調 spinal ataxia
 脊髄後索や脊髄小脳路の病変により深部知覚が障害されて生じる運動失調。

脊髄性失調歩行 spinal ataxic gait
 脊髄後索病変による歩行障害でフリードリッヒ病、後索腫瘍、脊髄癆などにみられる。

脊髄〔性〕ショック spinal shock
 横断脊髄障害が急速に起こった場合の臨床像である。障害部位以下に高度の弛緩性麻痺、筋緊張低下、深部および表在反射の消失、全知覚脱失をきたし、膀胱直腸障害(尿閉ないし横溢性尿失禁、便秘あるいは便失禁)、性的不能に陥る。
 また自律神経障害として障害部位以下で発汗減少、皮膚温上昇、立毛筋反射消失、皮膚紋画症〔細い棒で皮膚を図形を描くようにこすると、それに一致して紅斑や蒼白化すること〕の遅延およびその持続などがみられる。皮膚の栄養障害により褥瘡が生じやすい。脊髄ショックの状態は数日〜数週間続き、徐々に障害部位以下の反射が回復してくる(脊髄自動反射)。

脊髄性進行性筋萎縮症 spinal progressive muscular atrophy〈SPA〉
 脊髄前角の運動神経細胞の退行変性の結果、末梢運動神経も変性に陥り、筋萎縮をきたす疾患。筋萎縮性側索硬化症の下位ニューロン型とみなされ、現在は独立の疾患とは考えられていない。末期には典型的な筋萎縮性側索硬化症(ALS)と同様に、上位運動ニューロンや延髄運動核の変性も生ずるようになる。いくつかの病型に分けられてきたが、このうちデュシャンヌ型〕は筋萎縮が手から始まるもので、Vulpian-Bernhard型は筋萎縮が上肢帯に始まるものである。なお若年性進行性脊髄性筋萎縮症小児脊髄性筋萎縮症は、遺伝性が明らかなことや幼少期以前に発症すること、筋原性病変の存在することなどから、別の疾患と考えられている。

脊髄性片(半)側感覚消失 spinal hemianesthesia
 脊髄の半側の障害によって起こる知覚障害をいい、障害と反対側で障害部位以下の表在知覚(温・痛覚)の鈍麻(脊髄視床路の障害)、同側でそれ以下の深部知覚の障害(脊髄後索の障害)、多くの場合、同側の病変の高さの全知覚消失(脊髄神経後根の障害)、この全知覚消失帯の上の知覚過敏帯が起こる。原因は種々あるが、外傷、殊に刺傷、銃創の際に多くみられる。このほか、脊髄出血、脊髄圧迫、梅毒性疾患、多発性硬化症などでみられる。上記の知覚障害に同側の障害部位以下の運動障害(痙性麻痺)が加わったものをブラウンセカール症候群〔脊髄性片麻痺〕という。

脊髄造(撮)影〔法〕 myelography《ミェログラフィ、脊髄腔造(撮)影〔法〕
 腰椎穿刺、または後頭下穿刺で針先をクモ膜下腔に入れ、油性または水性の造影剤、あるいは空気を主とする気体を注入してX線撮影を行い、脊椎管内のクモ膜下腔の状態から脊髄やその周辺の病変を診断しようとする方法。

脊髄卒中 spinal stroke《myelapoplexy》
 脊髄血管の病的過程、すなわち、虚血性(閉塞性)あるいは出血性過程で、急激に脊髄神経症状が出現したもの。脊髄血管障害の急性型で、ある程度重篤な症状を呈したものをいう。原因疾患としては、(1)虚血性(閉塞性)疾患:脊髄梗塞のほか、広義には一過性脊髄虚血発作や脊髄間欠性跛行なども含む。(2)出血性疾患:脊髄硬膜外ならびに硬膜下出血、脊髄クモ膜下出血、脊髄実質内出血などがあげられる。

脊〔髄〕損〔傷〕 spinal〔cord〕injury《脊髄傷害;spinal cord lesion》
 脊椎および脊髄の損傷は、その性状から開放性損傷(刺創、銃創による)と閉鎖性損傷に分類されるが、後者が大部分である。一般に脊髄は、脊椎の骨折、脱臼と合併する鈍力により損傷されることが多いが、単なる脊髄の過屈曲、過伸展によっても損傷される。頸胸椎移行部、胸腰椎移行部に多い。

脊髄動静脈奇形 arteriovenous malformation of spinal cord
 脊髄表面もしくは脊髄内に存在する動静脈奇形、胸・腰・仙髄の脊髄後面に存在することが多く、脊髄出血やクモ膜下出血の原因として重要である。症状は血管塊(ナイダス)による脊髄圧迫や盗血により対麻痺、知覚異常、背部痛などが除々に進行する場合と、突然出血して頭痛、嘔吐、対麻痺をきたすものがある。診断は、ミエログラフィにより異常血管陰影が造影されることによるが、確定診断や治療方針の決定には脊髄血管撮影が必要なことも少なくない。血管撮影の所見はOmmayaとDiChiro(1969年)により以下の3型に分類されている。
(1) single coiled vessel type:1本の蛇行した異常血管が造影されるもので最も多いタイプ。
(2) glomus type:1本のfeederから小さなナイダスが造影されるもので成人に多い。
(3) juvenile type:多くのfeederから大きなナイダスが造影されるもので若年者に多い。
 治療は顕微鏡手術により全摘出することを基本とするが、これが不可能な場合も少なくない。最近では、摘出困難な症例には経動脈的に栄養血管の栓塞術を行うことも多く、比較的良好な結果が得られている。出血により血腫を形成し、脊髄圧迫症状をきたした場合には椎弓切除、血腫摘出術が必要となる。

脊髄動物 spinal animal
 延髄と脊髄の間を切断された実験動物。切断直後の一定期間は脊髄ショックが起こり、すべての脊髄反射が消失するが、カエルでは数分間、イヌ・ネコでは1〜2時間、サルで数日後には伸長反射、逃避反射などが出現する。

脊髄動脈造(撮)影〔法〕 spinal arteriography
 経皮的カテーテル法により、大腿動脈からカテーテルを挿入し、脊髄動脈造影を行うもの。脊髄を栄養する動脈は、前正中裂の前面を上下に走る1本の前脊髄動脈と背面を平行して走る2本の後脊髄動脈が存在し、互いに細い交通枝で交通している。これらの前・後脊髄動脈への分枝は、椎骨動脈、深部頸部動脈、大動脈からの枝である肋間動脈、腰動脈からの枝である根動脈から起こっている。血管造影は、副作用の可能性を減ずるため、手動により毒性の少ない少量の造影剤を用いて、短時間に造影を行う。撮影は小焦点X線管球により、観察はサブトラクション法〔血管像のみを観察する画像処理法〕を用いることが望ましい。脊髄の動静脈奇形や血管腫の診断などに用いられる。

脊髄軟化〔症〕 myeloma1acia
 脊髄血管系の閉塞性(虚血性)病変により脊髄実質に軟化を生ずるものである。臨床症状は、梗塞の拡がりや部位、梗塞の原因、側副血行状態などにより多様であるが、脊髄の腹側2/3を灌流し、側副血行路の少ない前脊髄動脈の閉塞による前脊髄動脈症候群が最も重要である。ほかに後脊髄動脈症候群、横断脊髄障害、中心動脈症候群などが知られている。
 脊髄梗塞の原因は動脈硬化、血栓症、血管炎、膠原病などによる原発性血管病変、脊椎ないし髄膜の病変による血管圧迫、塞栓症、全身血液循環低下、静脈系閉塞疾患などのほか、大動脈奇形手術、大動脈血管撮影、放射線療法などによる医原性のものもある。

脊髄嚢髄膜瘤 myelocystomeningocele《脊髄嚢髄膜ヘルニア》
 二分脊椎において、脊髄およびその髄膜の膨隆、脱出を伴うもので、脱出した脊髄の内側に髄液の貯留をみるのみならず、膨隆した脊髄と髄膜の間にも髄液がたまっている状態。

脊髄反射 spinal reflex
 脊髄内に反射中枢のある反射をいい、一般に体性反射と自律性反射に大別される。狭義には前者の意味で使われることが多く、これは主として運動性であり、反射弓が同じ髄節、もしくは隣接した2〜3の髄節にある髄節性反射(例:固有反射)と、いくつかの脊髄髄節にまたがる髄節間反射(例:引っ掻き反射、前肢後肢反射など)を区別している。

脊髄膀胱 cord bladder
 先天性、後天性のあらゆる脊髄疾患に基づく膀胱機能異常の総称である。外傷によるものが代表的である。外傷性のものでは受傷直後より受傷部以下のすべての反射が消失し、膀胱は無緊張膀胱となるが、時間の経過とともに受傷部位が排尿中枢より上位の場合は自動膀胱(反射膀胱)、中枢以下の場合は自律膀胱(高緊張無反射膀胱)を呈してくる。膀胱内圧曲線の各タイプにより治療法は異なるが、合併症の対策と患者の社会復帰が管理の基本となる。

脊髄誘発電位 evoked spina1 cord Potential
 末梢神経あるいは末梢受容器に対する刺激によって脊髄に誘発される雷位変化をさすことが多い。コンピュータを使った平均加算法によって椎骨上の体表面からも検出できる。一方、頸椎および腰椎の硬膜外腔に直接電極を入れて記録する方法もあり、主に外科領域で用いられている。この場合は遠心性あるいは逆行性の反応も誘発電位に含まれることになる。

脊髄離断 spinal cord transection
 外力によって脊椎、脊髄が損傷を受け、脊髄が傷害部位で横断された状態である。
(1) 完全横断損傷:運動知覚、自律神経、反射機能が脱落し、脊髄ショックの状態となる。回復期には屈曲性麻痺を呈する。
(2) 不全横断損傷:急性期脊髄ショックをすぎると伸展性麻痺を呈する。@片側性障害(ブラウンセカール症候群)、A前半部障害(完全運動麻痺、病巣部以下の痛覚減退)、B中心部障害(上肢に強く下肢に軽い運動麻痺、尿閉を主とする膀胱障害、病巣以下の知覚障害)。

脊椎 acanthi, spine, vertebra, vertebrae, vertebral column
 椎骨または脊椎骨とも。脊柱を構成する一つ一つの骨。ヒトでは32〜34個あって,部位に応じて頸(けい)椎(7個),胸(12個),腰椎(5個),仙椎(5個),尾椎(3〜5個)と呼ぶ。
 仙椎および尾椎は癒合して仙骨および尾骨となる。形は基本的には同じであるが,部位により多少の差があり,大きさは腰椎までは下がるに従い太くなるが,仙椎以下ではまた細くなる。1個の脊椎は,前方の円板状の椎体と,後方の半環状の椎弓とからなり,その間に椎孔をはさむ。椎孔は上下連なって脊柱管をつくり,脊髄をいれる。椎弓からは後方に1本の棘(きょく)突起,左右に1対の横突起,さらに1対ずつの上下の関節突起が出る。椎体の間は椎間板(椎間円板)という軟骨で連なる。また関節突起の間には椎間関節があり,椎弓間,各突起間には靭帯(じんたい)があって上下つながって脊柱を作る。

脊柱管狭窄〔症〕 spinal canal stenosis →腰部脊柱管狭窄症

脊柱機能不全 insufficientia vertebrae
 その発症のメカニズムとして、急激な成長に対して脊柱の機能が対応できずに側弯などの変形をきたすと考えられている。最近ではあまり使われない。

〔脊柱〕後弯〔症〕 kyphosis
 脊柱の矢状面での後弯が生理的な範囲を超えているものをいう。骨粗鬆症の患者にみられる老人性後弯症、脊椎の圧迫骨折による外傷性後弯、脊椎カリエスや強直性脊椎炎などが原因となる「炎症性後弯症」(Pott病)、Scheuermann病ともよばれる「若年性後弯症」などがある。治療は、症状に応じて装具治療、矯正体操などがあるが、後弯による脊髄麻痺がある場合や進行性の先天性後弯症などには手術療法が適応となる。

〔脊柱〕前弯〔症〕 lordosis
 脊柱は頸椎と腰椎で生理的な前弯がみとめられるが、病的に強い場合をいう。原因として麻痺性、炎症性、代償性などがあり、稀に先天性のものもある。

〔脊柱〕側弯〔症〕 scoliosis
 脊柱の側方への弯曲と回旋した変形をいい、原因不明の「特発性側弯症」と原因の明らかな「症候性側弯症」に分けられる。症候性には神経筋性、先天性骨奇形性、神経線維腫症に伴う側弯症、外傷性、感染性、代謝性などがある。特発性側弯症は側弯症のなかで約80%を占め、発症年齢により乳幼児期、学童期(3〜9歳)、思春期に分けられるが、大部分は思春期性である。これは女子に圧倒的に多く、胸椎部での右凸側弯が多いなどが特徴である。治療は装具療法などの保存療法が基本であるが、進行性のもの、呼吸機能障害や神経合併症のあるもの、保存療法で治癒できないものなどには手術的治療が行われる。

脊柱変形 deformity of spine《脊柱弯曲異常》
 変形の方向により矢状面での変形の「後弯症」・「前弯症」、前額面での変形の「側弯症」とに分かれる。原因としては先天性、代謝性、外傷性、感染性、神経病性などがあるが、原因不明である「特発性側弯症」は最も頻度が高く、全体の2/3を占める。

脊柱傍膿瘍 paravertebral abscess
 脊柱の、椎体ないし椎間板の化膿性炎が縦靱帯に拡がることによって生じた膿瘍である。ブドウ球菌によるものが多いが、小児では連鎖球菌の感染によることもある。椎体の結核の場合には「結核性膿瘍」となる。

脊柱弯曲矯正〔療〕法 rachilysis
 弯曲した脊柱を牽引や圧迫で機械的に矯正する治療法。疾病は神経系、ことに脊髄神経の機能異常から起こる。椎骨の関節間偏位を徒手矯正にて神経機能を正常化しようとする治療法は「徒手脊柱矯正術」(カイロプラクティック)という。

脊椎炎 spondylitis
 椎間板を含めた脊椎の炎症性疾患の総称であるが、必ずしも感染を意味するものではなく、特殊性のない用語である。感染症としては脊椎カリエスが最も多く、化膿性脊椎炎は比較的稀である。その他、原因不明の脊椎炎として、強直性脊椎炎、慢性関節リウマチがある。

脊椎過敏〔症〕 spinal irritation《脊柱痛》
 主症状は脊椎棘突起の圧痛、叩打痛であるが、炎症や外傷などの病変はみとめられない。好発部位は第4〜7胸椎で、女性に多い。原因として自律神経の失調とする説もあるが、明らかでない。主に対症療法が行われ、予後は良好。

脊椎カリエス spinal caries
 脊椎の結核で、骨関節結核のなかで最も頻度が高い。主に椎体が侵され、骨破壊が進行すると脊柱の変形を起こす。多量の膿が形成され流注膿瘍となったり、脊髄を圧迫して脊髄麻痺を合併することもある。主な症状は局所の疼痛、叩打痛や脊柱の後弯形成と運動制限などである。抗結核薬の進歩により予後は良好である。

脊椎関節炎 spondylarthritis
 脊椎椎間関節の炎症で、代表的なものに強直性脊椎炎がある。関節包から炎症が始まり、進行すれば骨性強直となる。

脊椎奇形 congenital malformation of spine
 脊椎の奇形は、その発生機転の異なる時期での障害により、椎骨形成障害型と椎骨分節化障害型とに分けられる。形成障害型では、椎体の前面あるいは側面の形成障害により楔状椎、半椎、蝶形椎などを形成する。分節化障害型では、完全に癒合したものを塊状椎という。また、椎体や椎弓、棘突起などが部分的に癒合したものもあり、このタイプでは成長とともに脊柱の変形が増強する。さらに形成障害と分節化障害を合併した場合もあり、高度の脊柱の変形を伴う。

〔脊椎〕後側方固定〔術〕 posterolatera1〔intertransverse〕fusion
 腰椎の関節突起外側、横突起間に骨移植を行って固定する手術。腰椎分離辷り症、椎問板症などに用いられる。比較的早期に離床でき、骨癒合も良好である。
   →脊椎固定〔術〕

脊椎後方固定〔術〕 posterior spine fusion
 脊椎を後部で固定する手術。椎弓間関節突起、棘突起間で骨移植あるいは特殊な器具を用いて(Harrington 杆およびLuque法など)行う。前方法に比べ手技的には容易であるが、固定性はやや弱い。側弯症によく用いられる。→脊椎固定〔術〕

脊椎骨折 vertebral fracture
 椎体、椎弓、棘突起、横突起に単独または合併して骨折が起こりうる。部位により頸椎骨折、胸腰椎骨折に分類。
 「頸椎椎体骨折」は頭部を介する介達外力による場合が多い。第4,5,6頸椎椎体に多く、脱臼骨折になりやすい。一般に頭蓋牽引により安静固定を図るが、脊髄損傷があり、麻痺高位が上向するものや、不全麻痺の場合は脊髄造影を行って圧迫部位を明らかとし、前方あるいは後方よりの除圧手術を行う。脊椎の不安定性を残すものは、前方または後方固定術を要する。
 胸腰椎部では椎体、椎弓、腰椎横突起骨折が単独または脱臼と合併してみられる。胸腰椎に上下方向の力と屈曲力が同時に働いた場合に、椎体圧迫骨折が生ずる。第11,12胸椎、第1腰椎が好発部位。背屈位にて、体幹ギプスを装着し固定して治療する。「腰椎横突起骨折」は直達外力による場合もあるが、多くは腸腰筋、腰方形筋の瞬間的な牽引力により発生すると考えられている。棘突起骨折は第7頸椎、第1胸椎にみられることが多い。

脊椎固定〔術〕 spine fusion
 脊椎の椎間板での動きを止め固定する手術。骨移植を行う方法として前方の椎体固定、棘突起、椎弓および関節突起を固定する後方法、横突起から関節側面を固定する後側方法(腰椎に用いる)がある。他に種々の器具を用いる方法(Harrington杆、Luque法、Dwyer法、Zielke法など)がある。

脊椎辷り症 spondylolisthesis
 上位椎体が下位椎体に対してずれている状態をいう。関節突起間部に分離がある辷り症が「脊椎分離辷り症」であり、辷り症のなかで最も頻度が高い。分離がなく、ずれた状態を「無分離脊椎辷り症」というが、これは原因別の分類による「変性脊椎辷り症」の意味として用いる。他に先天性脊椎辷り症、外傷性脊椎辷り症、病的脊椎辷り症などがあるが、繰返される外傷が原因とする外傷説が有力である。発生部位は第5腰椎が最も多い。症状は腰痛と下肢痛が主で、日常生活指導や保存的治療が行われるが、脊椎固定術が必要となることもある。
   →脊椎分離〔症〕

脊椎損傷 spinal injury《vertebral injury》
 外傷によって起こる脊椎の骨折と脱臼。脊柱管内には脊髄が存在するため、脊髄損傷を合併するものと合併しないものに分けられる。脊髄損傷を合併しないものでも、脊椎の不安定性が発生したものでは二次的に脊髄損傷を起こす可能性があるため注意が必要である。

脊椎脱臼 dislocation of spine
 脊椎の脱臼は骨折を伴うものが大部分であるが、頸椎では単独脱臼もある。片側脱臼と両側脱臼があり、両側脱臼では脊髄損傷を合併することが多い。

脊椎分離〔症〕 spondylolysis《椎弓分離症》
 脊椎の上関節突起と下関節突起の間の狭い部分が分離した状態をいい、さらに、上位椎体が下位椎体に対して前方にずれた状態を脊椎分離辷り症という。稀に関節突起間部に分離がなく、上位椎体が前方にずれている状態があり、これを無分離脊椎辷り症という。 
   →脊椎辷り症

脊椎傍注射 paravertebral injection
 ある脊髄節に限局した疼痛除去の目的には「脊椎傍神経ブロック法」が、また血管障害およびそれに伴う疼痛や内臓痛などに対しては「脊椎傍交感神経節ブロック法」がある。該当する脊椎レベルで棘突起から3〜5cm外側に離れた点で針を刺入し、脊髄神経あるいは脊髄交感神経節(幹)に針先を進め、局所麻酔薬を注入する。

脊椎麻酔 spinal anesthesia
 クモ膜下穿刺により、クモ膜下腔に局所麻酔薬を注入し、脊髄前根(運動線維)および後根(知覚線維)の麻痺を得る麻酔法。主に腰椎穿刺により施行される。胸髄以下の完全な無痛と筋弛緩が得られ、各種の手術に汎用される。麻痺高により、高位脊椎麻酔法(乳嘴の高さT4以下)、中位脊椎麻酔法(剣状突起T7以下)、低位脊椎麻酔法(腋高T10以下)、鞍状麻酔(S2以下)に分類される。また、一定範囲の麻痺を得る分節脊椎麻酔、長時間の麻酔効果を得る持続脊椎麻酔などがある。低位脊椎麻酔が一般的である。麻酔薬は3%リドカイン、0.3%ジブカイン、0.1〜0.5%テトラカインなどがよく使用される。
 禁忌はショック、脳脊髄腫瘍、脳脊髄膜炎、敗血症、穿刺部位の感染、出血傾向などの場合である。合併症は、交感神経遠心線維ブロックに伴う血圧下降、高位脊椎麻酔による呼吸抑制、腸管運動亢進による悪心・嘔吐がよく発生する。「脊椎麻酔後頭痛」は頻度の高い合併症であり、脳脊髄液の漏れのため発生するとされていて、なるべく細い(23〜25G)針での穿刺が望まれる。そのほか神経障害、直腸膀胱障害(馬尾症候群)、髄膜炎、クモ膜下血腫、動眼神経麻痺など、稀な合併症が報告されている。

脊椎(髄)麻酔ショック spinal shock
 脊椎麻酔を実施すると、交感神経節前線維がブロックされるため、容量血管をも含めて末梢血管が拡張する。その結果、心臓へ帰来する静脈血量が減少して心拍出量が低下し、収縮期血圧・拡張期血圧がともに降下する。血圧降下をそのまま放置すると、冠動脈血流量、脳血流量が維持できなくなり、さらに血圧低下、呼吸抑制が進行し、アノキシア〔無酸素症〕となって死亡する。この一連の反応をいう。防止には、必要以上に過大な領域の脊椎麻酔を避けるとともに、頻回に血圧測定をし、早期に血圧低下を発見し、昇圧剤・輸液を使って呼吸管理を行う。循環器疾患を有するもの、高齢などでは脊椎麻酔を避けるのがよい。

先制鎮痛
 手術を受ける前に皮膚または脊髄近くに鎮痛剤を注入し、痛み刺激が脊髄と脳へ伝わるのを阻止する治療法。術後の慢性痛防止に有効である。

椎間〔円〕板軟骨線維輪
 椎間板は、軟骨終板、髄核、ならびに線維輪とからなり、ムコ多糖を含むゲル状の髄核を輪状の層状構造を有する線維輪が取囲んでいる。この線維輪が退行変性すると髄核が脱出しやすくなり、椎間板ヘルニアの原因となる。

椎間関節固定〔術〕 facet fusion
 脊椎の椎間関節を固定する手術。椎間関節を切除し、骨移植を行う方法は側弯症など後方固定法による種々の器具での矯正時に併用される(Hibbs法)。その他、腰椎部では椎間関節をねじや骨移植で固定する方法がある。 →脊椎固定〔術〕

〔椎間〕孔拡大術 foraminotomy
 椎問孔開放術の一種で、狭窄した椎間孔を拡大し神経根に対して除圧する手術。頸椎ではLuschka関節部の骨棘切除。腰椎部では関節突起の切除がなされる。

椎間板症(疾患) discopathy
 退行性変化などによる椎間板が原因となる疾患をいい、脊椎カリエスなどの原因が明らかなものは除かれる。臨床症状は、腰背部痛や、それに伴う脊柱の運動制限、脊柱の不安定性、神経根症状などがある。X線所見では、椎間腔の狭小化、骨棘形成、椎体辺縁の骨硬化像や不整がみられる。治療は、主に保存的療法が行われるが、椎体固定術などの手術療法が適応となることもある。

椎間板造(撮)影〔法〕 discography《ディスコグラフィ》
 脊椎椎体間髄核内に針を刺入し、造影剤を注入して、椎間板の状態を明らかにするX線造影法。2本の穿刺針を用い、18G(ゲージ)の脊髄腔穿刺針で針先を目的の椎間板に対して置き、26Gの穿刺針で椎間板の中央部に水溶性ヨード剤を注入し造影を行う。正常椎間板は0.25〜0.5mlの造影剤しか保持しえず、注入に際して疼痛はない。診断目的は椎間板ヘルニアおよび変性または裂傷性椎間板などである。

椎間板ヘルニア disk herniation
 椎間板の線維輪の変性などの原因により、髄核が線維輪と後縦靱帯をつき破って後方へ脱出し、脊髄や神経根を圧迫して神経症状を引き起こしたもの。部位は、下位腰椎が90%以上で最も多く、下位頸椎にもあるが、胸椎は稀である。下位腰椎では坐骨神経痛の症状を呈する。治療は、初期にはまず安静、牽引などが行われるが、症状が持続する場合は髄核摘出術や椎体固定術などの手術療法が適応となる。

椎弓切除〔術〕 Iaminectomy
 脊椎管内の腫瘍、動静脈奇形などの血管異常、脊椎症や後縦靱帯骨化症などによる圧迫性脊髄症などの疾患に適応となる。除圧が目的の場合は、硬膜の拍動がみとめられるまで椎弓切除をする必要がある。

椎骨動脈 vertebral artery〈VA〉
 頸椎の横突孔を通って頭蓋内に達する動脈。環椎の横突孔を出たのち、水平に後方に走り、その後、上前方に進み大孔を通って頭蓋内に入り、左右の椎骨動脈が合わさって脳底動脈を形成する。

椎骨動脈圧迫症候群 vertebral artery compression syndrome
 椎骨動脈は通常第6頸椎から第1頸椎まで頸椎横突起孔を通過する。変形性頸椎症により骨棘が側方に強く突出すると、椎骨動脈を圧迫して循環障害をきたす。症状は頭痛、めまい、失神発作、ふらつき、複視、眼振、耳鳴など様々で、頸部の回転により誘発されやすい。椎骨動脈の太さに左右差があり、太い側を圧迫されたときに症状が出やすい。治療は頸部の安静やカラー固定を基本とするが、改善しないときには前側方より到達し、手術用顕微鏡下に骨棘を切除する。

椎骨動脈脊髄枝 spinal rami of vertebral arteries
 脊髄、脊髄神経根を栄養する根動脈は、多くの動脈から分枝しているが、その一つとして、椎骨動脈からの分枝である椎骨動脈脊髄枝がある。本血管は根動脈の最上部に位置し、頸髄部に至る。頸髄部には他に甲状腺動脈および肋頸動脈よりの枝が体節性に分岐する。これらの根動脈は、前・後根に沿って分かれ、脊髄神経に沿い椎間孔から脊髄管に入り、それぞれ前・後根動脈となる。根動脈の約1/3が前・後の脊髄動脈に達する。脊髄動脈撮影を行い動静脈奇形、血管腫などの病的変化が診断しうる。

椎骨動脈造(撮)影〔法〕 vertebral angiography
 股動脈経由で力テーテルを左または右鎖骨下動脈から椎骨動脈に挿入し、水溶性造影剤を急速に注入して椎骨動脈支配領域の血管のX線撮影をする方法。

椎骨動脈不全症候群 vertebral circulatory insufficiency syndrome
 椎骨動脈の血流障害により、めまい、難聴、耳鳴、一過性意識消失、一過性四肢麻痺、視力・視野障害、眼振、構音障害、小脳性運動失調などをきたす症候群。多くの場合、一過性かつ反復性である。原因としては動脈硬化によるもの(起始部、C1付近、脳底動脈に多い)。前斜角筋による圧迫・屈曲(Powers症候群)、頸肋やfibrous〔線維〕 bandによる圧迫、側方に突出した骨棘による圧迫などが多い。
 また、頸椎の退行性変化などの原因により、椎骨動脈が圧迫され、頸部の動きにより椎骨脳底動脈の循環不全が起こることがある。
 治療は頸部の安静、カラー固定、脳循環改善剤などの保存的治療を基本とするが、反復性かつ難治性のものには手術的治療が必要となる。手術方法として、動脈硬化性のものには内膜剥離術や各種のバイパス手術が、圧迫によるものに対しては原因の除去を目的とする各種の手術が考案されている。

椎体後方固定〔術〕 posterior interbody fusion
 後方進入による下位腰椎椎体固定術で、椎弓を切除し、椎間板を摘出した椎間に骨移植を行って椎体固定を行う方法(Cloward法)。ヘルニア例や腰椎分離辷り症が適応で、これらに対する治療と同時に、椎体固定が可能な利点があるが、前方固定法に比べ神経根や馬尾神経を障害しやすい。

椎体前方固定〔術〕 anterior interbody fusion
 前方から椎間板を切除し、椎体間を骨移植し固定する手術。頸椎では、(1)軟骨板を切除し、腸骨からの移植骨を挿入固定するSmith-Robinson法と、(2)円筒の器械を用いて椎間板を中心に掘削し、円筒状の骨を挿入固定するCloward法が代表的。エアードリルを用いて椎体を亜全摘し、骨移植固定する方法もある。
 胸椎、腰椎では、胸膜外・腹膜外侵入法と、開胸・経腹膜法がある。
頸椎、胸椎では椎間板ヘルニア、脊髄症を呈する脊椎症、後縦靱帯骨化症に、腰椎では辷り症、化膿性・結核性の脊椎炎、椎間板症などに適応がある。その他、最近は種々の器具による前方固定もなされている。
 脊髄、神経根に対する除圧、病巣除去、固定による椎体の不安定性および椎間板性疼痛の除去の効果がある。
   →脊椎固定〔術〕


■ タ 行・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

対麻痺 paraplegia 《下肢対麻痺、横断麻痺》
 通常、両側下肢の麻痺をいい、多くは脊髄障害による。弛緩性麻痺は一般に脊髄障害の急性期にみられることが多く、大部分は痙性麻痺である。そのほか馬尾神経の損傷、多発神経炎(両下肢から始まるCharcot-Marie-Tooth病など)、心因性のものなどがあげられる。

直達牽引 
 骨に直接牽引力を働かせる方法。キルシュナー銅線による銅線牽引がもっぱら行なわれる。

(直腸の)指刺激 Digital stimulation
 手袋をした指で直腸の肛門の括約筋をリラックスさせるため優しく指を回転させる動きを指し、排泄ケアにおいて排便のために行なう。

テノデーシス Tenodesys (腱固定) 
 手関節を上に屈曲させたとき、母指と他の4指が同時につまみ運動をするアクション。

導尿
 排尿困難に陥ったとき、カテーテルを通じて尿を体外に排出させる方法をいい、一般的にはカテーテルを尿道から挿入し、膀胱内の尿を体外に誘導する尿道カテーテル法のことをいう。このほかに、カテーテルを直接腎盂内に挿入する腎瘻術、尿管内に挿入する尿管瘻術や、膀胱内に挿入する尿管瘻術などがある。

トリガー・ポイント・ブロック
 痛みの起点(引き金、trigger)となる部位(トリガー・ポイント)に局所麻酔剤を注入する鎮痛法。


■ ナ 行・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

内臓痛
 胃、腸、胆嚢、尿管などは切られても痛みを生じないが、ねじれたり、急激に収縮・拡張した時に痛みが生じる。この痛みは交感神経によって脊髄へ伝達される。

ニューロパシー neuropathy《末梢神経障害》
 末梢神経障害の総括的名称。原因は遺伝、外傷、中毒、炎症、代謝異常、悪性腫瘍、末梢神経腫瘍圧迫など、多彩。障害分布では、モノニューロパシー、マルチプル・モノニューロパシー、ポリニューロパシーに分類される。症状は知覚障害、運動障害、筋緊張低下、反射消失、自律神経障害など。筋電図では神経原性パターンを示し、末梢神経伝導速度低下をみとめる。病理所見は軸索変性、節性脱髄、 ワーラー変性などの非特異的変化である。治療はリハビリテーションとともに、ステロイド、ビタミン、抗炎症性剤、鎮痛剤、末梢血行改善剤などを用いることがある。近縁語には多発性神経炎、神経炎がある。

尿道炎 urethritis 
 尿道に起こった炎症、主として男性に注目され、その罹患部位から前部および後部、また病原菌から淋菌性および非淋菌性、あるいはその臨床経過から急性および慢性の名を冠する。女性の場合はあまり独立疾患としては注目されず、わずかに淋菌感染が性器を介して起こりうる。急性の場合は排尿痛、排尿時灼熱感などの激烈な症状と、尿道より排膿、外尿道口の発赤などをみる。慢性のものは、自覚症状は激烈ではないが難治のものが多い。

尿道外括約筋筋電図〔法〕 sphincter electromyography
 尿道外括約筋は、尿生殖隔膜の位置で尿道周囲を輪状に取り囲む尿道周囲横紋筋群である。さらに肛門挙筋を中心とする骨盤底筋群も、随意的収縮を行うことにより括約作用を助けている。外括約筋筋電図は常時スパイク反射〔筋線維などの興奮〕がみとめられ、蓄尿とともに亢進するが、排尿(反射)とともに筋電図上休止し、スパイク反射は消失する。これは正常の排尿における利尿筋・括約筋協調作用を表している。電極は外括約筋へ刺入する針電極と、肛門内へ挿入するプラグ電極があって、適宜使用される。

尿道カテーテル法 urethral catheterization《膀胱カテーテル法》
 尿道に管状の器具(カテーテル)を挿入すること。導尿、膀胱洗浄、残尿測定や膀胱内圧測定などの検査、および膀胱X線撮影法や膀胱内凝血塊の排除などに用いられる。このカテーテルは、金属性のものと軟性のゴムやビニールやシリコンなどによるものがある。

尿道狭窄〔症〕 urethral stricture
 尿道の拡張性がなくなり、内腔が狭小化している状態。排尿困難、尿線の細小、あるいは尿放出力の低下などの排尿異常をきたす。多くは炎症あるいは外傷後の瘢痕形成が原因となる。一般に炎症性のものは、狭窄の程度は低いが範囲が広く、外傷性のものは範囲が限局されているが高度のものが多い。尿道拡張法、あるいは手術による狭窄部切除が施行される。

尿道憩室 urethral diverticulum
 尿道の壁の一部が脆弱化、?状に拡張した状態。多くは炎症、外傷、あるいは結石などにより後天性に発生する。感染や結石の合併がしばしばみられ、女性では慢性膀胱炎の原因となることがある。男性では,陰茎腹側あるいは会陰部の膨隆部を、女性では腔前壁を指で圧することによって外尿道口から尿の流出をみとめることにより、診断は容易につく。

尿道結石〔症〕 urethral stone
 腎・尿管結石、あるいは膀胱結石が尿道に嵌頓〔カントン:入り込む〕したものである。排尿困難、排尿時痛や血尿が主症状である。

尿道膀胱炎 urethrocystitis《膀胱尿道炎、膀胱尿道症候群》
 自覚的には膀胱炎と似た症状を呈するが、尿所見では強い感染所見をもたない患者に称せられるもの。大部分は女性患者であり、心因性の要素もかなり含まれることがあるが、慢性感染の一経過とみて化学療法が施行されることが多い。

尿道膀胱造撮影〔法〕 urethrocystography《尿道膀胱写》
 尿道と膀胱を同時に造影するX線検査法である。逆行性造影法にはあらかじめカテーテル通じて膀胱内に気体を充満させ、カテーテルを抜去後、外尿道口より造影剤を注入しながら撮影する気体膀胱造影との併用法と、外尿道口より造影剤を注入しながら撮影する注入時尿道膀胱造影法とがある。前立腺腫大や膀胱頸部疾患の診断に用いられている。また、膀胱にたまった造影剤を排尿させながら撮影する排尿時膀胱尿道造影は、特に膀胱尿管逆流現象の証明に有用である。

尿閉 urinary retention
 膀胱内に尿はたまるが排尿ができない状態で、腎での尿の分泌は可能であり、無尿とは本質的に異なって、下部尿路の機能的・器質的障害に由来しているが、尿意の有無とは関係しない。排尿が全くできない完全尿閉と少量の排尿が可能な不完全尿閉とがあるが、意識的に排尿が不能であっても、尿失禁のみられることがあり、慢性の尿閉に基づく大量の残尿で膀胱内圧が尿道抵抗を超えた状態(奇異性尿失禁)である。これに反し急性尿閉では、おおむね膀胱は恥骨上方まで膨隆して触知し、尿意や疼痛が激しい。前立腺肥大症、尿道狭窄や神経因性膀胱に多い。

尿量 urine volume
 一般には1日に排尿する量を意味する。健常成人の場合、飲水量、発汗量、外的条件の変化など多くの因子が関与するが、おおむね1,000〜2,000mlの範囲内とされている。病的に多い尿量が持続するものを多尿、逆に400ml以下のものを乏尿、さらに100ml以下のものを無尿とよぶ。

尿路感染〔症〕 urinary tract infection〈UTI〉
 一般的には非特異性細菌(たとえば大腸菌、変形菌、緑膿菌などのグラム陰性菌群およびブドウ球菌などのグラム陽性菌群など)によって尿路に発症した感染性炎症をいう。尿路に基礎的疾患がある場合を複雑性尿路感染症という。尿中には膿尿や細菌尿をみとめる。症状は臓器によって異なるが、腎孟腎炎では発熱、膀胱や尿道の炎症では排尿時痛が主たる症状となる。結核菌、真菌、トリコモナスなどの寄生虫や原虫による尿路臓器の感染は、特異性尿路感染症として一般細菌によるものとは区別される。

尿路結石 urinary stone《尿〔結〕石》
 腎部、尿管、膀胱、尿道などの尿路に存在する結石。

尿〔路結〕石症 urolithiasis
 腎から尿道に至る尿路管腔内に尿成分の一部が析出、結晶化し、これらが集合、沈着、増大して尿路内にとどまった状態。この結石は存在部位により、腎結石とか膀胱結石などの名称が与えられている。尿路結石を構成する成分は多数あるが、全結石の90%前後はシュゥ酸カルシウムやリン酸カルシウムなどのカルシウム結石である。その他、リン酸マグネシウムアンモニウム、シスチン、尿酸なども重要である。この成分に対応した薬物治療が特に再発予防に必要である。男性に多く、青・壮年期に好発する。

尿路疾患 uropahy
 尿路とは、腎(腎杯・腎孟)、尿管、膀胱・尿道をさし、これらに生じる病変をいう。わが国で特に頻度が高い疾患は、腎では結石、感染があり、稀に奇形、腫瘍、外傷がある。尿管では結石が主であるが,ほかに膀胱尿管逆流症、尿管内外からの圧迫による狭窄がある。膀胱では感染が多く、特に女性では大半を占め、ほかに神経因性膀胱や腫瘍があるが、結石や奇形は少ない。稀に婦人科疾患や直腸疾患の影響を受けることがある。尿道では感染(特に男性)が多く、高齢女性では尿道小阜がみられ,稀に狭窄、外傷、奇形がある。


■ ハ 行・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

馬尾症候群 cauda equine syndorme
 馬尾〔バビ〕神経や脊髄円錐の障害で、膀胱・直腸障害、会陰部の運動・知覚障害がおきる。まれに腰椎穿刺による神経損傷、出血、感染、消毒液混入、腫瘍などで起こる。

バビンスキー反射 Babinski reflex
 最も鋭敏な病的反射であり、臨床的有用性も高い。錐体路障害の際に、足底の外側部を足趾に向かってこすり上げると、正常と異なり母趾の背屈が起こる。また、母趾以外の四趾に、いわゆる開扇現象をみとめることもある。

バレ・リエウ症候群
 神経血管症候群。頭痛、めまい、耳鳴、視力障害、知覚異常などの症状がある。種々の頸椎疾患、ことに外傷によって脊椎動脈の交感神経巣の病変を来たし、その結果、血管運動障害を発するものと考えられている。

ハロー牽引法 Halo(頭蓋輪牽引法)
 損傷した頚を治療するために頭の周りにつける金属製のリング。プラスチック製のベストと一緒に使用したときに頚と身体をまっすぐに保つ。〔両者を一体としハロー・ベストという〕

ハバードタンク Hubbard tank(温浴療法器)
 訓練や褥瘡の治療に使う温浴用タンク。

ピーシーエー patient-controlled analgesia (PCA)
 痛みを感じた時、患者が自分でスイッチを押して鎮痛剤を注入できるポンプのことで、注入し過ぎないよう、何度もスイッチを押しても一定時間(lock-out time)は薬が注入されない安全装置がついている。

病的短縮反射 pathologica1 shortening reflex
 正常では抑制されているが、高位中枢の障害のため抑制がとれると出現する脊髄自動反射に含まれる。健常人で足の背屈がみとめられるのは、足底を刺激したときに限られる。足底以外の部、たとえば足背や足首を針で刺激しても、足の背屈が起こると異常であり、これをいう。この異常は錐体路障害のときに出現する。この反射は回避反射で、有害刺激を下肢の末端に加えると、股・膝・足の3関節を屈曲(三重届曲)させて反射的に逃避する。

病的反射 pathologic reflex
 狭義の病的反射とは、正常には存在せず錐体路系の器質的障害時にのみ出現する反射をいい、 バビンスキー反射とその類似の反射(チャドック反射・オッペンハイム反射など)、その他の病的状態にのみ出現する反射をさす。
広義には、正常にも存在している深部反射の異常な亢進またはクローヌス〔不随意の筋収縮の連続〕の出現、正常では存在が見出しにくい深部反射(ホフマン反射・ロッソリーモ反射など)の出現をも含めていうこともある。

複合性局所疼痛症候群 Complex regional pain syndrome(CRPS)
 損傷によって引き起こされる知覚神経,運動神経,および自律神経,免疫系の病的変化によって発症する慢性疼痛症候群。
ブジー
 弾力性のあるゴムまたは金属等でできている管状の器具。尿道その他の比較的狭い体管腔に挿入し、異物の探知、狭窄の拡張、薬物の塗布などに用いられる。
 ブラウンセカール症候群 Brown Sequard syndrome《脊髄半側傷害症候群、脊髄性片麻痺》
 脊髄半側損傷によって生じる症候群。傷害部以下の同側の痙性麻痩、腱反射亢進と病的反射の出現、知覚性失調、対側傷害部位より1〜2分節以下の温・痛覚の脱失、傷害レベルの傷害側の狭い全知覚脱失帯などである。触覚障害はみとめられないことが少なくない。また血管運動障害や傷害部やその上の知覚過敏帯、根痛なども発現する。

変形機械矯正術
 変形した骨格や関節(特に頚椎)に対して器械(牽引装置)によって牽引力を加え、生理的、解剖学的に正しい形態に矯正する方法をいう。腰掛で牽引する法(懸垂療法)の場合に該当する。

変形徒手矯正術
 日常生活に重要な運動機能を営む関節(肩、肘、手、股、膝、足)が変形、拘縮を来たしている場合、器械を使用せず、通常温熱を作用させたり、矯正のマッサージを行って血流をよくしてから矯正し、その位置に固定し、また次回同じ矯正を繰返して目的を達する整形外科的専門手段をいう。

膀胱結石症 cystolithiasis
 膀胱内に結石が存在している状態。一般には膀胱内で発生したものをさすが、なかには上部尿路からの小結石が降下してきたものも含まれる。膀胱結石の主成分は腎結石と異なり、リン酸および尿酸を主とするものが多い。結石を発生、増大させる因子としては、下部尿路の通過障害による尿流の停滞、および尿の感染が重要であり、このことから本症は高齢者の男性に頻度が高い。体動時に増悪する膀胱刺激症状や、尿線中絶が特徴的な症状である。内視鏡的操作による砕石術、あるいは手術による膀胱切石術がなされる。

膀胱穿刺〔術〕 bladder punctuation
 恥骨上で、腹壁から経皮的に直接膀胱壁を穿刺して膀胱尿を採取または排除する方法。尿閉をきたし苦悶状態にあるにもかかわらず、尿道狭窄や尿道外傷のために経尿道的に導尿が行いえないときの応急処置として行われる。

膀胱洗浄 bladder irrigation
 挿入したカテーテルを通して膀胱内を洗浄することである。長期間留置するカテーテルヘの石灰沈着を防止するためや、膀胱出血、膀胱や前立腺部の手術後の凝血塊の排出、膀胱の感染に対する治療のためなどに行われる。それぞれの目的のために、生理的食塩液やクエン酸塩溶液(G液)とか、殺菌剤や抗生剤の溶液などが用いられる。一時的に洗浄する場合や、持続的に溶液を灌流する場合がある。

膀胱造(撮)影〔法〕 cystography
 膀胱に造影剤を入れて撮影するX線検査法。注入方法は、経尿道的に挿入したカテーテルで造影剤を注入する「逆行性膀胱造影」と、静脈性尿路造影に引き続いて行う「排泄性膀胱造影」がある。
 造影剤としては、気体と液体があり、前者を使用した場合は、特に「気体膀胱造影法」とよばれている。撮影法には、特殊なものに重複撮影法、延引撮影法、排尿時撮影法がある。また、気体と硫酸バリウムあるいはハイトラストを用いる二重造影法もあり、粘膜面の微細な変化の描出に優れている。

膀胱麻痺 cystoplegia
 排尿を司る神経の末梢、もしくは中枢・連絡系路の損傷、切断などのため、膀胱利尿筋が完全に弛緩した状態である。膀胱知覚を欠如すれば膀胱容量は増大し、排尿反射が欠如していれば利尿筋の収縮が起こらない。通常、神経障害を受けた直後に生じ、脊髄ショックと称せられ、残存神経機能が回復するには数日〜数力月を要し、6ヵ月を超えれば回復は不能である。選択的な神経障害は、運動麻痺のみを生じる場合と感覚麻痺のみ生じる場合があり、前者は脊髄炎、帯状庖疹、ギラン・バレー症候群(急性発症の多発根神経炎)〕に併発し、後者は糖尿病性神経障害にみられることが多い。

膀胱容量 bladder capacity
 正常膀胱は尿貯留に応じて伸展し、内圧は特に上昇しない(静圧5〜10cmH20以内)が、150mlの貯留で尿意を感じる。膀胱利尿筋の弾性力で伸展するが、500mlになると弾性力は限界で膀胱内圧は急上昇し始め、この知覚から強い利尿筋の収縮反射が生じる。膀胱の排尿効率は、排尿量に残尿量を加えて膀胱容量とし、残尿量の百分率と規定するが、正常は0〜10%以下である。膀胱壁の伸展は、筋自体の変性や間質の線維化、炎症、浮腫、充血などにより弾性を失えば容量は減少し内圧は高くなる。非代償性に利尿筋が過伸された状態は、容量の増大をまねき、内圧は低下する。

膀胱瘻(フィステル)  vesical fistula《膀胱皮膚瘻(フィステル)》
 狭義には恥骨結合上に、手術的(膀胱瘻造設術)または穿刺法(膀胱穿刺術)により設置された膀胱皮膚瘻をさす。広義には、尿瘻のうち膀胱が関与する膀胱皮膚瘻、膀胱腟瘻、膀胱直腸瘻、膀胱結腸瘻、膀胱子宮瘻、膀胱腋瘻(尿膜管開存)などの内・外瘻を含める。
   →尿瘻(フィステル)

膀胱瘻造設〔術〕 cystostomy《膀胱フィステル形成〔術〕》
 膀胱尿を尿道を介さずに直接腹壁へ導く手術で、膀胱頸部以下の種々の尿路通過障害のときや、膀胱、前立腺、尿道の手術の際に一時的または永久的に行われる尿路変更術の一つである。高位切開により膀胱を切開し、カテーテルを挿入する方法と、恥骨上部の皮膚の小切開口より穿刺針で膀胱穿刺を行いカテーテルを留置する方法などが一般的である。さらに膀胱の一部を管状に形成し、皮膚との間に瘻孔をつくる方法もある。

ホルネル症候群 Horner syndrome《ベルナール・ホルネル症候群》
 瞳孔縮小、眼裂狭小、眼球後退を三大症候とするもの。頸部交感神経の直接の障害(創傷)・頸胸部リンパ腺腫大による圧迫、腫大した甲状腺の圧迫、頸部胸部動脈瘤、癌腫の転移、膿瘍の圧迫、肺炎部肋膜癒着などのときに発症する。頸髄と胸髄の境界部の側角に存する毛様脊髄中枢の病変とか間脳・視床下部およびその下降路の病変により起こる。


■ マ 行・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

マニプラチオン Manipulation
 徒手でやる診断・治療の操作。広い意味で矯正や整復も含まれるが、狭義では椎間板ヘルニアに対して行う一連の治療手段とか、五十肩に対して肩関節の他動運動によって癒着をはがす方法で、全身麻酔で行われることが多い。

麻痺性イレウス paralytic ileus《腸麻痩》
 腸麻痺は旧語。腸管の蠕動運動が種々の原因により減弱麻痺し、腸内容の通過障害をきたすもので、機能性イレウスの大半を占める。腹腔手術、腹部外傷、諸種腹膜炎、急性膵炎、卵巣?腫茎捻転などの腹膜刺激、絞扼性腸閉塞のほか、全身性感染症、尿毒症、ショック、薬物中毒、脊髄損傷などに誘発される。嘔吐、腹部膨満、腹痛、ガス糞便の排出停止が出現する。治療は非観血的治療を原則とする。抗生物質投与、完全静脈栄養、イレウス管挿入、電解質バランスの補正など全身状態の改善を図り、蠕動運動亢進剤(ネオスチグミン、プロスタグランジンF2a)を投与するとともに原疾患の治癒促進に努める。

ミエログラフィ(Myelography)=脳脊髄撮影


■ ヤ 行・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

腰椎穿刺 lumbar puncture《クインケ穿刺》
 髄液の採取や、髄液腔内に薬物、造影剤、アイソトープなどを注入する目的で、最もふつうに行われる穿刺方法。患者を側臥位にし、両腕で膝を抱かせて十分前屈させた姿勢をとらせる。左右の腸骨の頂点を結ぶヤコビー線上に第4腰椎棘突起が位置するのを指標として、第3〜4腰椎間または2〜3腰椎間で穿刺する。約6〜7cmでクモ膜下腔に達する。

腰椎穿刺後頭痛 post-spinal headache
 脊椎麻酔や診断的腰椎穿刺などの目的で、硬膜を穿刺した後に発生する頭痛。脳脊髄液が穿刺部位より漏れ、坐位や立位で脳が下降し血管・天幕・神経を圧迫するために発生する。  太い穿刺針の使用で頻度は上昇する。種々の程度の疼痛が穿刺後1〜2日目に、前頭部・後頭部・項部などに現れ数日間持続し、坐位や立位で増悪、臥位で消失または軽減する。治療法は安静、鎮痛薬、輸液など。重症例では穿刺部位と同椎間の硬膜外腔に針を刺入し、自家血を5〜10m1注入するとよい(硬膜外血液パッチ)。

腰椎損傷 lumbar spine injury
 腰椎の損傷。診断は正面と側面の2方向のX線像より、脊椎のアラインメント、椎体および後部構造の骨傷を判断する。椎間関節に骨傷が疑われれば斜位を追加する。椎体後縁や脊柱管の骨傷状態を把握するためには断層撮影やCTスキャンを行う。
 初期治療の要点は骨傷の整復と整復位での固定である。胸腰椎移行部の損傷が最も多く、この部位では脊髄下端部と腰髄・仙髄の神経根の障害をきたすことがある。第2腰椎以下の損傷では、馬尾神経障害を合併することがある。

腰椎部椎間板ヘルニア protruded lumbar disc
 下部腰椎の椎間板髄核が脱出し、神経根を圧迫して腰痛、坐骨神経痛をきたすもの。第4〜5腰椎間が最も多く、ついで第5腰椎〜仙椎間が多い。第3〜4腰椎間は比較的稀である。症状は根性痛を主とし、進行した例では筋力低下や排尿障害も出現する。特徴的な神経学的所見としてラセーグ徴候があり、これは膝関節を伸展したまま下肢を挙上すると殿部から大腿後面にかけて激痛が走るものである。診断はミエログラフィ〔脳脊髄撮影〕や腰椎CTにより、突出した髄核を証明することにより行う。治療は痛みのみのものには保存的治療を第一選択とするが、麻痺や排尿障害のある例、保存的治療で症状が軽快しない例には髄核摘出術を行う。

腰部脊柱管狭窄症 lumbar spinal canal stenosis
 もともと脊柱管狭窄症は、脊柱管の発育障害や変形性脊椎症による脊柱管の狭小化が原因で、馬尾神経を圧迫し、間欠跛行〔びっこ〕を特徴とする疾患と考えられていたが、最近では、神経根管や椎間孔における神経根の圧迫によるものも含めて分類されるようになった。そして腰部脊柱管狭窄症は腰部における神経根の絞扼〔コウヤク:しめつけ〕による症候群と定義づけられている。これには、先天性発育性狭窄、変性性狭窄、混合型狭窄などがある。腰痛、下肢痛、間欠跛行が主な症状である。


■ ラ 行・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ラセーグ徴候 Lasegue sign《下肢伸展挙上試験》
 坐骨神経痛の一徴候。仰臥位の患者の下肢を伸展したまま、検者の手で足を持ち上げていく。健常人では股関節での屈曲が70°くらいまでは痛みを生じない。患者では、70°以下で殿部から下肢後面の坐骨神経走行に沿って疼痛が生じ、このため膝屈曲が起こるのを陽性とする。
   →ケルニッヒ徴候

留置カテーテル
 カテーテルを尿道内にいれたままにしておき、常に膀胱内の尿を体外に導き出す法。

良導絡治療
 電気を応用した「ハリ・灸」治療の一種。昔の経路に相当する線に、病気の時に電気がよく流れるという事実があるのでこれを「良導絡」と呼び、つばにあたる部分は点状に電気がよく流れることがあるので「良導点」と呼ぶ。電気測定器でつばや経路を測定して治療することを「良導絡治療」という。また針を刺して、それに少し電気を流すと痛みがとれやすいというので「電気針」という治療法も用いられる。

ループ式人工肛門造設〔術〕 loop colostomy《係蹄式人工肛門造設[術]》
 小腸あるいは大腸に造設される人工肛門の一種で、一般には一時的人工肛門の双口式に属する。これは腸係蹄をそのまま皮膚創より体外に出したもので、口側と肛門側の両方の腸管が同一創に開口する型のものであるが、そのため、腸内容の肛門側腸管への流入が起こりうる欠点がある。特徴としては短時間で造設でき、将来腸管の連続性を容易に回復させることが可能である。 →人工肛門造設〔術〕


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