◆脊椎、骨セメントで再生




 ◆つぶれた部位に注射器で注入◆

 血圧が高めだった高知市の山崎一恵さん(80)は4年前、トイレでふらっときたと思うと倒れ、床で背中を打った。痛みで2日間は自宅で横になっていたが、治まらず、病院へ。胸椎(つい)、つまり背骨の「圧迫骨折」と診断され、入院した。

 年を取り、骨がもろくなる骨粗しょう症になると、力が加わって骨が押しつぶされる圧迫骨折が起きやすい。脊椎(せきつい)の圧迫骨折は、足の付け根の大たい骨頸部(けいぶ)骨折と並び、高齢者に多い。

 治療は通常、痛みが強い2―3週間はベッドで安静にし、その後コルセットを付け、歩行練習を始める。3か月もすると、崩れた骨のすき間が自然にふさがる。骨折の程度にもよるが、安静にしていると痛みは治まるので、医療機関にかからない人も少なくないと言われる。

 山崎さんは、入院先から高知医大整形外科教授の山本博司さん(63)を紹介され、臨床試験に参加する形で新しい治療を受けた。つぶれた骨の再生を促す「骨セメント」を骨折部位に注入する方法だ。

 使用したのは、「リン酸カルシウム骨セメント」と呼ばれ、歯磨き粉のようなペースト状の素材。つぶれた背骨に、背中から直径5ミリほどの穴を開け、注射器で注入する。

 10分でほぼ固まり、1週間から10日で骨と同じ強度になる。周囲の組織を刺激し、骨の形成を促す作用も持っている。山本さんらが化学メーカーと共同で90年から開発してきた。

 山本さんによると、安静を主体とする従来の治療では、骨は元に戻るのではなく、つぶれたままの形で固まる。体を動かすと変形した軟骨などが神経に触り、痛みが残る人も多い。日常の動作にも差し支える。

 さらに骨折で背中が丸くなると、ほかの骨もつぶれやすくなるうえ、内臓を圧迫する形になり、心臓や肺に負担がかかる。昨年、「脊椎圧迫骨折があると、寿命が縮まる」という海外のデータも報告された。

 これに対し、骨セメントで骨組織を補い、再生すれば、変形を残さずに治療できる。痛みがすぐに取れ、骨折前の姿勢を保つことも可能になる。

 「これまで、年を取ると節々が痛み、背中が丸くなるのは仕方ないと思われてきた面がある。脊椎の圧迫骨折があっても、元に戻す簡単な方法がなく、運動能力にあまり影響はないという誤解もあった」と山本さんは説明する。

 山崎さんは、1週間後からコルセットを付けて歩き始め、2か月で退院。80歳の今も、背筋はきりりと伸び、共働きの息子夫婦を助け、孫の世話や、庭の手入れや掃除など家事に元気な日々を過ごす。「無理はしませんが、作業は以前と同じようにできますよ」と笑顔で話す。

 骨セメントは先月、医療用材料として厚生省の承認を受けた。ただ、注入の際、骨の周囲に漏れて固まると、神経を圧迫して痛みが生じる場合もあるため、使用には細心の注意が必要だ。

 山本さんは「骨セメントで、脊椎の圧迫骨折の治療は新たな時代を迎えた。今後、さらに安全で効果的な使い方を研究したい」と話す。

 骨折の後、日常生活にスムーズに戻れるよう配慮した、治療の新しい流れを紹介する。(渡辺 勝敏)

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(8月29日9:53)