◆脊髄損傷…若者も悩む




 「主治医が性の問題をちゃんと説明してくれなかった。だれにも相談できず悩み続けた」

 脊髄(せきずい)を損傷して下半身不随となったノースカロライナ州のロバート・クレメントさん(32)は、性的不能に直面した時の心情を告白した。

 米国泌尿器科学会が開かれたダラス市内で先月、突然の悲劇と、性的不能の問題を軽視しがちな医療現場の現状を訴えた。

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 事件は97年10月。「銃を持った男が立てこもった」との通報を受けて警察官だったロバートさんは現場に急行。民家に入った途端、背後にいた犯人が発砲。銃弾数発を受けた。

 死線をさまよった末、一命は取り留めた。が、脊髄を損傷し、下半身の自由が奪われた。

 「私には幼い子もいて、命が助かって本当によかった。でも、車いすの生活は悲しく、むなしかった」

 退院したロバートさんは、同じ警察官だった妻のランダさん(40)とともに、新たな難問に突き当たる。性的不能に陥っていた。

 脊髄には手足の知覚や運動に関係する神経組織や、性機能にもかかわる自律神経があり、これが傷ついたり、圧迫されたりすると、勃起(ぼつき)しなくなる。

 米国の医療現場は、インフォームドコンセント(医師の説明と患者の理解)が進んでいるが、ロバートさんは入院中、性的不能について、十分な説明を受けた記憶がない。退院の直前に看護婦から「セックスができなくなるかもしれない」と言われただけ。もちろん、治療法は知らされなかった。

 退院後、しばらくして感染症で、泌尿器科病院へ行った時、思い切って性的不能の問題を相談してみた。すると医師から様々な治療法の説明を受け、新薬の「バイアグラ」を服用したところ、性生活がよみがえった。

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 銃器による脊髄損傷は、いかにもアメリカらしいケースだ。日本の状況はどうだろうか。

 厚生省身体障害者実態調査の推計では、在宅で18歳以上の脊髄損傷患者は7万6千人(96年)。整形外科医らで組織する日本パラプレジア(対(つい)まひ)医学会の調査では、原因のトップは交通事故で、全体の約44%を占める。受傷時の年齢は59歳に次いで20歳にピークがある。つまり、性的不能で悩んでいる若者が多い。

 「子作りの問題を含めて、中高年以上に若い人ほど深刻」。全国脊髄損傷者連合会の会長で、自身も四肢まひの妻屋明さん(58)は打ち明ける。

 しかし、若い人たちは恥ずかしがって、悩みをぶつけ合わない。家にこもりがちとなり、いつのまにか性的興味を失い、何事にも消極的になっていく。「脊髄損傷患者自身がもっと、この問題を世の中に問わなければいけない」(妻屋さん)

 ロバートさんも強調している。

 「若い夫婦にとって、絆(きずな)を深めるためにもセックスは大切です」

 [性的不能の原因疾患]

 骨盤・脊髄の損傷、糖尿病、高血圧、高脂血症、冠動脈疾患、喫煙やアルコール飲用、抑うつなどがある。患者数は日本で600―700万人と推定される。

(6月9日9:07)