JSCF NPO法人 日本せきずい基金

人工呼吸器使用者の在宅生活で必要なもの
中山 さん


  それでは、次に古跡さんの右側にお座りの、中山さんをご紹介いたします。 中山さんは 5年前、ラグビーの試合中の事故で頸髄損傷になられた方です。頸髄損傷は皆さんよくご存じだと思いますが、通常は受傷したときの部位から 1番か 2番は麻痺が回復します。急性期の治療を受けて、だいたいどの人でも 1、2番は麻痺の部位が下がる、ここに今日お見えの瀬出井さんは、3番ぐらい麻痺が下がっています。

  中山さんは、受傷直後、頸椎 5番、6番の損傷で、それから5日間は自力呼吸ができていたそうです。それから原因がわからないんですが炎症のためということで、頚椎の 2番にまで麻痺が上がってしまいました。そして人工呼吸器に依存する生活になっております。

  ただ、中山さんはほかの方に比べ非常に恵まれた条件がありました。国立リハビリテーション病院へ呼吸器を付けながら転院できたことです。今日いらした方の中にも、何人もここでリハビリテーションを受けられた方がいらっしゃると思います。今、呼吸器使用の頸損者を抱えたご家族が一番困っているのは、退院を勧告されても転院できる病院がないことです。四方八方探して、やっと見つかっても家族が二の足を踏むというような病院でないと、なかなか受入れてもらえない状況の中で、中山さんは所沢に呼吸器を付けて転院できた、われわれから見ますと、日本の、こういう障害を持たれた方の中では、非常に幸運なケースです。

  そこで 1年 2ヵ月訓練を受けて、ご自宅に戻られました。国立リハビリテーションでも、先ほど古跡さんが使われていたようなスピーキングバルブを使って、 発声の訓練をされたそうですが、中山さんの場合、なかなか声がうまく出ません。今日はぜひともご自分で皆さんにお話ししたいと、それができないのが非常に残念ですが、お母様に代理でお話ししていただきます。よろしくお願いいたします。

中山(母) 中山と申します。今、突然、私も言われたものですから。 何をお話していいかわからないんですけれど。タバコが吸いたいそうです。(笑)

松井 中山さん。今一番困っていること、いろいろ書いてくださいましたね。それを読みましょうか。

中山 じゃあ、先生、読んでいただけますでしょうか。

松井 それでは、その資料を出している間に、曾我部先生に移らせていただきます。曾我部先生が話された後、私が(中山さんの原稿を)代読させていただきます。 (曽我部:「先生とは呼ばないで下さい」)はい。 わかりました。私にとっては先生のような方なので、ついつい、曾我部先生と呼ばしていただいていますが、それでは曾我部さんをご紹介さしていただきます。



手が使えるように脊髄再生研究に期待

曽我部教子さん


  曾我部さんは、10年前アフリカ旅行中に熱気球に乗って着陸の事故で、頸髄 4番の損傷となられました。 そしてナイロビで救急治療を受けられて、 人工呼吸器を使った状態で帰国されて、関西労災病院に転院されて、そこで 3年間入院されて、治療とリハビリテーションを受けられました。

  そこで曾我部さんは、どうしても社会復帰したい、職業復帰したいと意思表示されてきました。ご職業は中学の理科の先生です。実験を必要とする理科の先生に、 どうしても復帰したいという願いを強く出していたら、 病棟の看護婦さんたちが、 絶対にできないと言われたそうです。それに曽我部さんは発奮して、絶対に復職するという意気込みで単身生活を始められ、 実際に職業復帰、 現職復帰されました。来週はまた授業をいくつも控えているという忙しい中、兵庫県の尼崎市から来ていただきました。よろしくお願いいたします。

曾我部 皆さん今晩わ。ただいまご紹介にあずかりました曾我部と申します。私は松井先生に紹介していただいたように、10年前に事故にあったんですが、自分の障害を受入れたのはわりと早くて、入院して 2年目ぐらいに自分の障害をかなり受入れていました。 そのころ弟がきて私にこういう話をしました。

  「もし、姉さん(私のこと)が日本で事故を起こしていたならば、手はおそらく動いただろうと先生が言ってたよ」と。 私はそういうことは主治医から一度も聞いたことがありませんでした。その話を聞いたとき、私は弟にこう言いました。

  「もうその話は二度としてほしくない。私は私の状態を、この障害の状態を受入れている。曲がりなりにも理科の教師や。中枢神経は絶対元には戻らない。こう思っている。だから、もしも日本で事故が起こっていたならば、というようなことを言ってほし くない」こんなふうに弟に言いました。

  当時、主治医の先生がおっしゃったのは、アフリカのタンザニアとケニヤ国境の近くでバルーンが着陸に失敗して、そこからナイロビ病院までに運ばれている間、セスナ機で飛んだんですが、そのセスナ機が到着する間、トラックでかなりのスピードで揺れながら、運ばれていました。そのとき恐らく、神経がだんだんとやられたんだろうということでした。でも私はその前に着陸に失敗した時に、ブチッという音を 2回聞いています。 1度目の音で足が動かなくなりました。 2度目のブチッという音で手が動かなくなりました。だから私は神経が完全に切断されたと判断していました。

  入院中先生に、切断された神経の先を見せてほしいと頼んだんですが、ナイロビと日本では手術の方法が違っていて、骨の固定がワイヤーかなんかで行なわれていて、 MRI を見ることができなく、 神経の先が見れませんでした。私はそれから何年か経った後も、中枢神経は再生しないって頑固に思い込んでいました。

  でも、日本せきずい基金のニュースを読むうちに、私のそういう強い思い込みは変わってきました。そして、今の生活に希望がないということではありません。希望はいっぱいありますが、それと別にまた新しい希望が沸き上がってきました。それは先ほど京大の先生に質問させていただいたように、例え片方の手の親指と人指し指二つだけでもいい、何とか動きたい。その二つの指で本のページをめくりたい。パソコンを打ちたい。その二つの指さえあれば、あご(操作)でない電動の車イスにも乗れる。そういう希望がわきあがってきたのです。 こういう希望を与えてくださったせきずい基金を立ち上げてくださった方々に、この場で深くお礼を申し上げたいと思います。どうもありがとうございます。

  それからもう一つ、私の脊髄が運ばれている途中で痛んだということに関してなんですが、松井先生の『頸髄損傷』 (医学書院) という本の中に 「カナダでは脊髄損傷の脊髄専門の病院がある」 ということが書かれていました。 そしてけが人が出た場合、それが脊損の場合、直ちにヘリコプターで運ばれていく。そういうシステムが完備しているということを知りました。 どうか、日本せきずい基金の会でも、そういう脊損専門の病院と、その病院に付随して専門的な研究機関及び生活の問題に取り組んで下さい。

  私はお給料をかなり高額もらっている障害者だと思いますが、そのほとんどはヘルパー代に消えてしまいます。 だから頸損になった人、脊損になった人の生活も含めて、総合的に相談にのれるような集中的な施設をぜひとも作ってほしい。人に頼むのではなくて、もちろん私もその一員として私のできる分野で力を出したいと思っています。ぜひ、そういうことも今後考えていただきたいと思っております。話が長くなりましたがこれで終わらしていただきます。ありがとうございました。

松井 曾我部さんは 『ガベちゃん先生の自立宣言』という本を書かれております。今日、販売されていますか?

曾我部 持ってきておりません。商売っ気がないもんですから。 (笑)

松井 『ガベちゃん先生の自立宣言』 は出版社が樹心社ですね。東京の樹心社から発行されております。関心がある方はぜひお読みください。それではちょっと順序が逆になりましたが、中山さんが、メールで事前にこのトークセッションにむけて、 こういうことを話したいと寄せられたことが 4点ございます。それを代読させていただきます。


呼吸器利用者の在宅生活に必要なもの

中山 さん


1番、 ぼくの場合呼吸器が外れると 2分程度しかもたないので、基本的には 24時間、介護が必要である。 また、介護者には呼吸器、電動車イス、啖の吸引器などの器械に対しての、多少の知識が求められる。

2番、 普段は声が出ないのでコミュニケーションをとるのが難しく、ぼくの行なっていることを理解するには時間が掛かるらしいので、できれば特定の人に看護してもらいたい。

3番、 啖の吸引、 排便の介助ができる介護者。
現在は母親しかできない。

4番、 ぼくは、 身長が 176センチ、体重 80キロとかなり大きいので、力のある看護者が必要で、母親の高齢に伴いこの問題が一番心配。
☆ 排便の時や、長時間寝ている時、 体位交換をするときに力が必要となる。入浴時も多少力が必要である。現在思いつくのはこの程度です。つたない文章ですみません。ひとまず、送信致します。


松井 こういうメッセージを事前にいただいております。 中山さんが指摘された問題は、もうすでに進んだ国では技術的に解決されています。気管切開で呼吸器を使用していても話せるし、吸引回数も減少できる、訓練すれば 2 分間のみでなく、もっと長く呼吸器を外すこともできます。リハビリテーションの進んだ国では急性期に積極的に、呼吸器を外す「離脱」の訓練も致します。

  日本では人工呼吸器を使う人たちのリハビリテーションが遅れています。呼吸器管理の安全性のためにも話せるようにするためにも、離脱の訓練、そういうリハビリテーションを受けられる専門施設が、呼吸器を使う方のためにぜひ必要だ、ということで中山さんのメールを紹介させていただきました。




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