JSCF NPO法人 日本せきずい基金

オーストラリアの脊損予防プログラム
2004年7月  日本せきずい基金事務局


 オーストラリアではさまざまな脊損予防プログラムが行われてきている。その中心となっているのがPBF(オーストラリア脊損慈善基金:Paraplegic Benefit Fund Australia)である。1984年に設立されたPBFは120以上の企業を含む5万人の会員を抱え、以下の活動を行っている。

@ 脊髄損傷者のニーズを掘り起こしQOLの向上を図ること。
A 地域社会の脊髄損傷への関心を高め、予防プログラムを全国的に行う(特に子どもに焦点を当てる)。
B 脊髄損傷から効果的な向上や治癒のための研究。
 ここでは若年ドライバー向けの予防プログラム、およびこうした予防プログラムの考察をまとめ、我が国における脊損予防プログラムを考える際の基本資料として提供したい。


〔構成〕
  1. 脊髄損傷予防プログラム 
    1−1 セッションの概要
    1−2 交通安全脊髄損傷予防プログラム(SIPP)の理論的根拠
         http://www.pbfbne.asn.au/resources/video.htm#framework
    1−3 PBFビデオ「Where are your choices taking you?」
    1−4 ‘Best Choice’「ベスト・チョイス」(歌詞)

  2. 若年ドライバーに関する文献レビュー

  3. 参考資料;「オーストラリアにおける免許取得年齢」
    <エクセルファイルです>

翻訳:赤十字語学奉仕団
分担:「SCI予防プログラム」・・・新谷進、五十嵐正喜
「予防プログラムセッション」・・・佐藤祐子、中村真寿美
「若年ドライバーに関する文献レビュー」・・・古米稔子、関根孝江、浜井華子
「オーストラリアにおける免許取得年齢」(調査&資料作成1名)・・・坂本剛


1. 脊髄損傷予防プログラム

1−1.交通安全脊髄損傷予防プログラム セッションの概要
セッションのねらい

セッションの目的
時刻 所要
時間
内容 用意するもの
0:00 〜
0:02
2 分 導入
  • 自己紹介
  • セッション目的の紹介
    • 生徒たちが交通安全について最良の選択をする助けとなること
    • 自動車事故の外傷による脊髄損傷で起こりうるマイナスな結果を生徒たちに学ばせること
0:02 〜
0:20
18 分 ビデオの紹介と上映
  • ビデオ上映時間は約15分間
  • 強く感情を掻き立てられる者がいても、問題ない
  • セッション中およびセッション後に感じたことを話す機会がある
  • ビデオ上映後に少し黙想時間をとる
  • ビデオ
    「Best Choice」
  • ビデオ
    プレーヤー
0:20 〜
0:22
2 分 隣の人と話しあう
  • 音楽CD「Safer You」をかける
  • ビデオを見て感じたことについて、隣の人と1分程度話しあう
  • CD「Safer You」
  • CDプレーヤー
0:22 〜
0:27
5 分 脊髄損傷をもつプレゼンターのみ脊髄損傷について自分の体験を語る
  • 損傷前の生活
  • どのように損傷が起こったか
  • 危険状況と危険な対応
  • 人生のすべてが1秒で変わった
  • 脊髄損傷を抱えた生活
  • 自分自身、友人たち、家族- 質疑応答
0:27 〜
0:30
3 分 あなたの好きなこと運転免許を持つ理由
  • 運転免許を取りたい人は?(挙手)
  • なぜ取りたいのか?(いくつかの返答を聞く)
あなたがしたいこと
  • 週末にどんなことをしたいか?(いくつかの返答を聞く)
0:30 〜
0:32
2 分 脊髄損傷の影響- 判断を誤って脊髄損傷を負った場合、今生徒たちが言ったことにどんな影響が出るかを説明する
0:32 〜
0:34
2 分 あなたにも起こり得る?
  • 自動車事故に遭ったことのある、又は遭った人を知っている生徒に挙手をしてもらう
  • 16歳から25歳までの若者で、交通事故に遭った人数に関する統計を発表する
  • この割合を教室内の生徒の人数に当てはめ、数年以内に交通事故で負傷する可能性の高い人数を指摘する
0:34 〜
0:38
4 分 あなたにできること
  • ビデオで提案されたことのうち、あなたが道路で安全でいられて、そして豊かに生活するためにできることは何か?
    • もっと自己主張できるようになる
    • 仲間からの圧力に対処する(仲間によい影響を与えるようにする)
    • O 酒、ドラッグ(酒に酔っていたり、ドラッグをやったりしている運転者の車に乗らない)
    • O する前に、自分のすることについて考える(1回以上)O 無敵ではないことを知る
    • O 頭に浮かぶ声を聞くO スピードを出す車に乗らない(自己主張する)
    • O シートベルト
    • O 制限速度
  • 否定的な回答から肯定的な回答への言い換えを試みる。例えば、「スピードを出すな」から、「制限速度内で運転しよう」へ
  • 生徒たちが指摘しなかったことを付け加える 
0:38 〜
0:42
4 分 BEST CHOICE(ベスト・チョイス)の歌を聴く
  • Best Choice(ベスト・チョイス)の歌詞を配る- 歌の中の主要なメッセージを聴くように呼びかける
  • 歌を流す- 意見を聞く
  • 「わかるよね」というフレーズを強調する
  • CD「Best Choice」
  • CD プレーヤー
0:42 〜
0:44
2分 障害と戦う
 後 悔
  • 私のようにならないで
    • このようなことは知っていた
    • そのとき私は、ただ考えが足りなかった、または安全よりも優先したいことがあった
  • 人は、以下の要因から交通安全上の賢い選択が出来なくなる
    • 格好良い vs. 格好悪い
    • 怠 惰   vs. 自分を大切にする
    • 悪い習慣 vs. よい習慣
0:44 〜
0:48
4 分 見方を変える
  •  危険な行動を、弱い、馬鹿げた、格好悪いものだと再認識させる(自分自身や、友達や、家族を危険な目にあわせることのどこが格好良いのだろう)
  •  怠惰で自分を大切にしない人をどう思うか、生徒に問いかける(いくつかの返答を聞く)-  これらの行動が、格好良いか悪いか生徒に意思表示をしてもらう
  •  一流のスケートボーダーたちは安全のために何をしているか、そしてそれは格好良いかを、生徒に問いかける
  •  交通安全についての考えを話すことのできる、勇気をもって自己主張できる人のことを生徒に思い浮かべてもらう
  •  これらの行動が、格好良いか悪いか生徒に問いかける
  •  可能ならば、賢い道路の使い方をするために、どのように良い習慣を身に付けるかを生徒に問いかける(いくつかの返答を聞く)
0:48 〜
0:50
2 分 セッションの要約
  •  あなたがたは、交通安全に関して間違った選択をしてしまうと、即時に失ってしまうものについて、私やビデオの登場人物から学んだ
  •  また、自分や自分の友達を大切にするためにできる、とても簡単なことをいくつか学んだ(例えば、シートベルトの着用、スピードを出す車や酔っているドライバーの車には乗らない、自分の身を守る)
  •  あなたがたは、自分を大切にすることは格好良い、そして、道路上で馬鹿げた行為をすることは、格好悪くて、とんでもないことだと言った
0:50 〜
0:52
2分 約束しよう
  •  あなたが交通安全において、以下のどちらの行動をとるのか、今決断しよう
  •  私は、私自身も他の人々も大切にしたいので、交通安全において最善の選択をする
  •  私は、そんなことには構わず、私自身と周囲の人々の人生を大きな危険にさらすこの決断は、あなた自身がしなければならない。 あなたが最善の選択をしてくれることを願う。あなたにはわかるはずだ。
0:52 〜
0:54
2分 閉 会
  •  生徒に対して、参加してくれたことに感謝する
  •  父兄に資料を配布する
  •  生徒に対して、もしより深くこの問題について話し合いたいと思った場合には、教師、学生サービススタッフ(学校付属の心理学専門医、牧師、学年コーディネーターなど)に相談するように伝える
  •  父兄用配布資料




1−2.交通安全SIPP(脊髄損傷予防プログラム)の理論的根拠

 変化の段階:
 変化の段階理論(Prochaska & DiClemente)によると、積極的な行動の変化は、以下の段階の後に起こるとされる。
 本セッションでは、以下によって、生徒にこれらの段階を急速に進ませることを目的としている。
 少なくともこのセッションでは、その他の交通安全のセッションにおける課題を提示する。


 動機及び決断
 行動の多くは、楽しみを求めたり、苦痛を避けたりするために決断される。
条件反射は、感情的な状態との結びつきによってさらに促進される(つまり、ある行動に結びついた肯定的な感情は、その行動を助長しやすい)。
 脊髄損傷が若者の人生に与える影響について、ビデオ及び脊髄損傷者の若いプレゼンターにより、説明される。中程度から強度の感情の状態が、交通安全上の選択を誤ったために生じる損失や障害によって喚起される。これは、誤った選択のマイナス点を強調することで交通安全を選択することを促す。
 楽しい人生は、交通安全を選択することから生まれる。また、交通安全の選択は「格好いい」ことと再認識できるのに対し、危険な行動は「格好悪い」と表現される。交通上での自己主張できる、責任ある行動は、力強い感覚を生む。また元気な歌は、肯定的な選択に関連づけられた肯定的な感情を深め、繰り返すことにより一層効果をあげる。
 本セッションは、自由の喪失や苦痛と結び付けられる不注意や危険な道路上での行動と、さまざまな人生の選択を可能にする安全な道路上での行動との違いが分かるようにすることを目的としている。
 セッション中、「感情の混乱状態」の中で、生徒たちは、交通安全を選択するか、あるいは危険を冒すのを選択するかを決断することを求められる。

 抑制の理論
 本セッションは、生徒たちに道路上で危険な行動をしないようにさせることを目的としている。
抑制に影響を与える3つの要因は :

 確 実:本セッションでは、確実という考えについて2通りの方法で説明する。
生徒たちに、自分や友達や家族が自動車事故にあったことがあるかどうかを質問する。
 負傷に関する統計を示し、教室内の生徒たちの一部が25歳までに負傷する可能性に置きかえてみる。
 生徒たちと何ら変わりの無い若者が脊髄損傷者として、ビデオの中やプレゼンターとして登場してくれている。生徒たちは、これらの若者に強く共感したと報告している。
 迅速:ビデオやプレゼンターが、文字通り瞬く間に人生が劇的に変わってしまうことを強調する。
 重 大:このプログラムの最も強力な面は、脊髄損傷がストーリー仕立てで紹介され、マイナスの結果との関連性を深めている点であろう。否定による防御反応を招きかねず、また「いつかはみな死ぬ」として正当化される可能性のある死とは違い、脊髄損傷は、生涯にわたって重大な損失と障害をもたらすものである。

 発展的理論 
 青年期は、依存から独立への転換期である。意識しているか否かにかかわらず、転換期にはしばしば通過儀礼が伴う。自動車は、自由、権力、独立、強さ、性的機会と結び付けられる。若年男性は特に、危険な走行によって自分の能力、権力、度胸を証明しようとする。
 本セッションは、危険な走行を弱い、ばかげた、格好の悪いものとして、また安全な走行を力強くて格好のいいものとして捉えなおすことを目的としている。

 要 約
 1セッションに組み込まれた16分間のビデオと音楽CDの価値は、限られたものであろう。
 しかし、プログラム全体のなかにおいて、交通安全に対して大きな影響を与えるものと期待できる。
 本セッションは、行動の変化に関する数多くの理論を集約しており、集中的なセッションとしてこれらの理論を組み込んでいる。少なくとも、交通安全に関して、力強い課題の提示と注意喚起とを行うであろう。生徒たちが熟慮以前の段階から熟慮段階さらには行動段階へと変化して進むようになるため、本セッションを行うことにより、その他の交通安全セッションが最大限の効果をあげることができるはずである。




1−3.PBF ビデオ「Where are your choices taking you?」
 ユニークな貢献


 他の交通安全教育プログラムとの関連
 教師はセッションの終わりに、生徒たちに交通安全を実行したいかどうか聞いてみるのもよい。

 アクティビティ案
 ビデオ「Where are your choices taking you? 」を補うその他のアクティビティ案は次のとおり。
 手順



1−4. ‘Best Choice’「ベスト・チョイス」(歌詞)
コーラス 選べ。選ぶんだ、自分の人生を!
ベスト・チョイスをしよう、わかるよね
君は全てをなくしてしまうかも
正しい選択をしなければ
ベスト・チョイスをしよう、そう わかるよね!
ベスト・チョイスをしよう、そう わかるよね!
一節 瞬きひとつの間に、間違った選択ひとつで、
君の人生は変わってしまう。だから、間違えないで
「僕にはそんなこと起こらない。スピード出して思い切り走ろう」
ハイになってドライブ、そして全てを失う。
ハイになってドライブ、そして全てを失う。
コーラス 選べ。選ぶんだ、自分の人生を!
ベスト・チョイスをしよう、わかるよね
君は全てをなくしてしまうかも
正しい選択をしなければ
ベスト・チョイスをしよう、そう わかるよね!
ベスト・チョイスをしよう、そう わかるよね!
二節 君自身も君の友達も大切にしよう
車に乗るとき
夜出かけるとき
シートベルトをしっかり締めよう
安全に、そうすれば遠くまで行ける
安全に、そうすればきっとうまくいく




2.若年ドライバーに関する文献レビュー

著者:Judith Molloy & Elizabeth Develin

 初めに
 若年ドライバーの起こす交通安全上の問題点には明らかな特徴が見られる。移動中の衝突事故による死者をみると、15歳から24歳の年齢層ではその他の年齢層よりも高く、若年層の死亡率は全年齢層の2倍である(Williamson,2000年)。運転距離キロメーターに換算した数字で見てみると、1991年オーストラリアでの死亡事故は、17歳から20歳のドライバーによるものは45歳から49歳のドライバーによるもののほぼ7倍である(Wylie,1996年)。これはオーストラリアだけの問題ではなく、ニュージーランド、アメリカ合衆国、カナダをはじめ他の多くの国でも、モータリゼーションの進んだ国の問題点として確認されている(Catchpole,Macdonald & Bowland,1994年)。

 統計によると、若年ドライバーのグループの中でも、男性は女性に比較して明らかに路上交通事故を起こしやすい。若年男性は負傷または死亡につながる路上交通事故に巻き込まれるリスクがより高い。これには男性のほうが路上に出る機会が多いことも一因である(Fletcher,1998年)。また若年男性が事故に巻き込まれる原因は女性に比べて様々である。若年男性ドライバーが事故を起こす時、その原因がスピードの出しすぎであるケースは若年女性の事故より多く、若年女性ドライバーの起こす事故は、運転技術の未熟さによることが多い(Federal Office of Road Safety [FORS],1997年a)。

 1998年、17歳から25歳までの若年層について:

 1997年と1998年 オーストラリアにおける死亡者

男性ドライバー  0‐16歳   17‐25歳      .
  1998年      10名     203名
  1997年      11名     248名
(FORS,1999年)


 若年男性を巻き込んだ路上交通事故の多くは、週末の午後遅くから夜間に起きている(FORS,1997年a;Triggs & Smith,1996年)。夜間に運転する若年層はまた、製造後10年以上の車を運転していることが多く、その車は自分の所有であることが多く、目的地に急いでおり、友人を同乗させていて、過去12ヶ月に警告を受けていることが多い(Triggs & Smith,1996年)。

 若年ドライバーが事故にあう場合、一台の車の衝突であることが多く、新人ドライバーの過失による事故であることが多い(FORS,1997年a)。若年ドライバーの占める割合の多い事故のタイプは、正面衝突、追い越し時、後部衝突、車のコントロール技術の未熟さによるものなどである。製造後9年から13年の車両で事故にあう若年ドライバーの割合は熟年ドライバーよりも高く、製造後14年以上の車両の場合よりも高い(FORS,1997年a)。負傷者が二人以上の夜間の衝突事故に巻き込まれたドライバーの割合もまた、若年ドライバーのほうが熟年ドライバーよりも高い(FORS,1997年b)。一般的に、若年ドライバーの事故は熟年ドライバーに比べて、巻き込まれる人数が多く、結果としての負傷の程度も大きい(FORS,1997年b)。

 ニューサウスウェールズ州の若年層の背景
 ニューサウスウェールズ州の12歳から24歳の若年層の19%が家庭では英語以外の言語を使用する。最も多いのはアラビア語(レバノン語を含む)と中国語である(NSW Office of Children and Young People,1998年)。非英語圏で生まれた若年層のほぼ半数が、ベトナム、香港、フィリピンのいずれかの出身である(NSW Office of Children and Young People,1998年) 。

 若年ドライバーの特徴
 未熟な若年ドライバーと経験を積んだ熟年ドライバーでは精神運動性、知覚力、認識力に関して差がある。この三種の一般能力の不足が高い事故率を生んでいる。

 若年ドライバーはブレーキ操作、ハンドル操作、スピード調整のスキルが不足していることが明らかにされている(Mayhew & Simpson,1995年)。これが、彼らの路上での行動に反映されている――若年ドライバーにとって難しいのは、車線内での適切な位置の保持、スムースな加速と減速、状態や状況の変化に合わせたスピード調整である。若年ドライバーのスキル不足は、車をコントロールするにあたっての変動幅、持続時間、速度、加速度など車のコントロールの質にも反映されている(FORS,1997年c)。

 若年ドライバーはまた周囲の状況を観察して危険を察知する知覚力が不足している。初心者のドライバーは危険を認知して反応するのにかかる時間がより長く、特定の状況でリスクを読み違える傾向にある(Mayhew & Simpson,1995年)。若年の初心者ドライバーはコントロール技術の習得が大変速く、20時間以内の運転でこれをマスターしてしまうが、危険な状況やリスクを認知する力を習得するにはもっと時間がかかる(Mills,1998年)。技術の未熟なドライバーは、意識的な意思決定や運転監視に自身の注意力のより多い部分を使わなければならず、そのため残っている予備の注意力の割合が少ない。道路上で実際に起きている現実では、自分以外のドライバーがいつも交通法規に従ってくれるとは限らないのだが、経験の少ないドライバーでは熟年ドライバーに比べてこのことを認識している割合が少ない(FORS,1997年c)。

 若年ドライバーは運転に対する態度も熟年ドライバーとは違う。熟年男性は運転を単にAからBへの移動手段と見ているのに対して、定性的な研究に参加した若年層はレクリエーション目的の運転を重視していた (Keys Young,1999年)。McGrathとChu(1999年)によると、若年層はまた、運転は自分たちに機動力、自由、楽しむ力を与えるものだと見ている。

 McGrathとChu(1999年)は、車は大人への過渡期にある若年層の様々な必要性を満たすものである、と説明している。McGrathとChuの研究によると若年層は自分たちの社会的、娯楽的、文化的ニーズにあった公共の交通手段やインフラが地域にないことに不満をもっている。運転免許の取得は独立のために重要である――車が運転できることは若年層が自分の生活をコントロールできる唯一の機会である(Keys Young,1999年)。

 若年男性ドライバーの路上での危険行為
 危険行為という問題について対象となるグループに関与しているのは若年男性で、彼らは社会的あるいは物理的成り行き次第で、特定の危険行為を行なうかどうかを決めることが多いようである(Keys Young,1999年)。主に仲間のあいだで、その行動が社会的に受け入れられるか拒絶されるかが明らかに影響している。サウス・オーストラリア州の対象グループ参加者は、男性は様々な理由から危険な運転行動に関与し、その理由には友人への見せびらかし、退屈しのぎ、興奮したいから、注意を引くためなどがあると報告している(Taylor,1997年)。

 若年男性が危険行為を行なう場合、自分の望む自己イメージが傷つけられるかどうかが意志決定過程に明らかな影響を与えており、潜在的な負傷や長期の健康被害よりも大きく影響している(Keys Young,1999年)。死亡という究極の身体的結果でさえ、危険行為をする若年男性の抑止力として働かないこともあり、これは彼らが(独身で子供がいないため)自分の命に限られた価値しか認めていないためである(Keys Young,1999年)。

 リスクの要素
 若年男性と交通事故の関係については数多くのリスクの要素が認められてきた。それには次のような要素が含まれる。

 1)スピード違反
 スピード違反はかつて若年男性の路上交通事故の主な原因として概説された(FORS,1997年a)。定性的な研究によると若年男性は「スピード違反は社会的に受け入れられた運転行動であり、飲酒運転はそうではない」とみなしている(Keys Young,1999年)。また若年男性では、よく知っている自分の地元であるという認識とスピード違反との間に明白な関連性がみられる(Keys Young,1999年)。若年男性はまたスピード違反には危険なものと危険でないものの二種類があると考えており、スピード違反の危険性を数字で評価(時速10キロから20キロオーバーは安全とみなす)している(Keys Young,1999年)。

 また若年男性はスピード違反を楽しんでいる。若年男性は目的地に着くことに明らかな関心を示すが、さらにスピード違反のスリルと運転の楽しみを求めている(Keys Young,1999年)。

 サウス・オーストラリア州について、Dawsonの報告(1998年)によると、ドライバーの認識している運転技術と彼らがスピード違反を犯す率との間には強い正の相関関係がある。運転のうまい(自己認識)ドライバーほどスピード違反を犯しやすいのである。ドライバーの認識している安全は、事故やスピード違反を犯す率と負の相関関係にある(Dawson,1998年)。

 オーストラリア交通安全局(the Australian Transport Safety Bureau:ATSB)の調査(1999年)によると、主に年齢によって、そのドライバーのスピード違反の頻度が予想できるという。25〜39歳までの14%と24歳未満の19%が自分はたびたびスピード違反をしていると認めている(ATSB,1999年)。15〜24歳のグループおよび25〜39歳のグループでは、スピード違反を繰り返す率がより年齢の高いグループの少なくとも二倍と認められている(ATSB,1999年)。
 Over誌(1998年)に引用されているニュージーランドの若年層に関する研究 (Harre, Fielld & Kirkwood, 1996年)では、飲酒運転、スピード違反、危険な運転をしたことがあると認める男性は女性よりも多かった。Macdonaldの報告(1994年)では、スピードの出しすぎのような客観的に見て危険な行為は、故意にリスクを犯したりリスクを受け入れていることばかりが原因ではなく、危険の認知や認識における技術の不足も大きな原因であると認められている。

 2)社会文化的背景
 失業中、低所得、アボリジニーである、トレス諸島*出身などの社会経済的状況を示す要素と、交通事故で負傷する危険性との間に関連があることが明らかにされている(Harrison,1995年)。特に交通安全に関して、自動車に乗っているアボリジニーやトレス諸島民社会の出身者は、アボリジニー以外の人々と比較して、同乗者として交通事故にあって負傷し入院することが多く、ドライバーとして事故にあうことは少ない(Moller, Dolinis & Cripps, 1996年)。 注*:大陸とパプアニューギニア島との間にあるトレス海峡諸島。

 0〜14歳のアボリジニーとトレス諸島民の子供たちは、車のドライバーではなく同乗者として負傷する場合が多いが、驚くことにこの年齢層の子供が車に乗っているケースの約8%が運転をしているのである(Molletら,1996年)。アボリジニー以外の人々と同様にアボリジニーとトレス諸島民の間でも、15〜29歳の年齢層が路上交通事故によって入院する率が最も高い(Mollerら,1996年)。

 社会経済的な状況は負傷による死亡にも関連がある。負傷による早死の最も多い原因は、自殺と路上交通事故である。このような原因の死亡率は、社会経済的状況と負の相関関係にある。ニューサウスウェールズ州保健局(NSW Health)の Chief Health Officerの報告(1997年)では、これは負傷事故全体、特に路上交通事故に対する全国的な傾向であるとしている。

 3)地方/遠隔地
 若年層が衝突事故を起こす危険性は、地方のほうがより高い(Ozanne-Smith,1995年)。これは以下のような要素が多いからである。すなわち、代用の交通手段の不足、移動距離の長さ、地方の道路では制限速度がより速いこと、運転開始年齢が早いことなどである。

 4)アルコール
 若年男性は‘危険性の高い’飲酒者の多くを占めており、したがって若年男性がアルコールに関連した負傷をする危険性が相当高くなることになる。Over誌(1998年)に引用されたHarre, Field, Kirkwoodによるニュージーランドの若年層に関する研究(1997年)は、飲酒運転をしたことがあるという男性は女性より多いと報告している。Fletcher, Hamilton, Hewitsonの報告したニューサウスウェールズ州の統計(1997年)もこの事実を支持しており、1995年にニューサウスウェールズ州において、血液中のアルコール濃度が0.05あるいはそれ以上で死亡した若年男性ドライバー数は、15:1の割合で女性を上回っている。Monash University Accident  Research Centre[MUARC]の報告(1997年)は、アルコールによる死亡事故の割合がもっとも高いのは入手可能なデータで見ると21歳から29歳の年齢層であり、最も若いドライバー層(16歳から20歳)がアルコールに巻きこまれる割合は比較的低い。

 Stewart,Cohen,Taylor,Soleの調査(1995年)の青年サンプルでは、回答者の60%が少なくとも一度は法的に飲酒運転とされるような飲酒後の運転をしたことがあると認めた。回答者の飲酒運転に対する態度を詳しく調べると、たまに飲酒運転をするのは普通だが、常習的に飲酒運転をするのは無責任な行為だと考えていることが明らかになった(Stewartら,1995年)。

 若年ドライバーが飲酒運転をする機会は熟年ドライバーより多いとは必ずしもいえないが、若年ドライバーが飲酒運転をした場合に衝突事故に巻き込まれる危険性はより高いことが明らかである(Cavallo&Triggs,1995年)。13〜19歳のドライバーは大人のドライバーよりもアルコールの影響を受けやすい。どのような血中アルコール濃度においても、16〜19歳の男性ドライバーの衝突死亡事故の危険性は熟年ドライバーよりも高い(Chen, Baker, Braver & Li, 2000年)。

 5)ストレスと攻撃性
 若年ドライバーの交通事故による負傷は、ストレスを感じた体験をした直後に起きる傾向がある(Wigglesworth,1995年;Slap,Chaudhuri,&Vorters,1991年)。Di Pietro(日付不詳)はまた、調査の結果、初心者ドライバーは緊急時にストレスを感じやすく、過剰反応を起こしパニック状態におちいる傾向がより強いと報告した。

 攻撃性の高い若年層はまた無謀な運転をする傾向が強い。Keys Young(1999年)は、若年男性がスピード違反をしようと決める場合、怒りが重要な役割を果たすことを発見した。

 6)運転経験、技術、年齢
 若年ドライバーに多い路上交通事故の二大原因は、運転の経験不足と未熟さである。これらの要素は独立してあるいは競合的に作用し、若年層の交通事故の危険性を劇的に高めている(MADD、1999年a)。路上運転経験の少ない若年ドライバーは交通事故の危険性が高く、しかしまた路上経験の多い若年ドライバーはより事故を起こしやすいために、適切なバランスをみつける必要がある(Williamson,2000年)。
 若い年齢で免許を取得する若者には共通する特徴が多い。16〜29歳という若さでの免許の取得は、低年齢で免許を取得できる州に住み、若年で、男性であることと関連が深い。さらに低年齢での免許取得と関連する要素として、地方に住んでいること、貸家か下宿に住んでいること、家で英語以外を話していないことが挙げられる(FORS、1997年d)。

 7)同乗者
 若年ドライバーが同乗者(親ではなく友達)を乗せていると、昼夜にかかわらず交通事故の危険性が高まる。危険性が高まるのは、同乗者がいると気が散るためや、ドライバーが仲間の前でわざとリスクを犯してみせようとするためである(Cavallo,1995年;Di Pietro,日付不詳;Williamson,2000年)。

 8)シートベルトの未着用
 若年ドライバーのシートベルトの着用率は比較的低く(ただし最年少ドライバーはそうではない)、また着用しないドライバーでは、車の状態が悪い、血中アルコール濃度が高い、同乗者の人数が多い、など他の危険な行動を伴うことが明らになった(FORS、1997年b)。フロントシートのシートベルトを常時着用しないのは女性よりも男性に多いのが明らかである(ATSB,1999年)。

 9)介 入
 若年男性の交通事故による負傷を予防するために有効とされる戦略のエビデンスのほとんどが、環境的または工学的解決および交通安全に関する法的強制戦略から生じている。法律の施行により、ビクトリア州はこの23年間で交通事故の死亡率が最も高い州から最も低い州になった。

 ビクトリア州で成功した法的手段の例は、シートベルトおよびチャイルドシート着用の義務付け、飲酒運転に的を絞った一括法案、初心者に対する自動二輪車のエンジン容量の制限、着用の義務付けに到った自動二輪車での安全ヘルメット着用奨励、新型車両の安全性の拡大、地方の高速道路・都市の幹線道路・地域道路における道路交通工学上の安全性の改善などである(Vulcan,1995年)。

 立法的な介入の更なる実例として、2000年7月ニューサウスウェールズ州で施行された「段階的自動車免許取得制度(GLS)」があげられる。GLSは、若年ドライバーの道路環境との接触を減らすことで初心者ドライバーを徐々に道路に慣らしていく効果的な方法であることが明らかである(Williams,1999年)。
 現在の免許規定〔参考資料参照〕では、ドライバーは知識テストを受け、「Lプレート」を取得して最低6ヵ月間(有効期間は36ヵ月)それを付け、実技テストを受けて「Pプレート」を取得し最低12ヵ月間それを付ける。GLSではドライバーは知識テストを受けて、Lプレートを取得し最低6ヵ月間(有効期間は36ヵ月)それを付け、実技テストを受けてPプレートを取得する。最低12ヵ月はP1プレートを付け、次に危険認知度テストを受けて最低24ヵ月はP2プレートを付け、その後にドライバー 資格テストを受ける(RTA,1999年)。

 Catchpole, Cairney, Macdonaldの報告(1994年)は、GLSに組み込まれた危険認知度テストは潜在的に安全なドライバーと潜在的に危険なドライバーを識別するのに有効であるとしている。しかし、潜在的に危険なドライバーのスキルを向上させ潜在的に安全なドライバーにさせるような訓練プログラムが提供されない限り、このような識別をしてもあまり利用価値はない(Catchpoleら,1994年)。


 立法および環境的な介入に替わる代替プログラムはいろいろ行なわれ、その成功度も様々である。その例として以下のものが挙げられる。

 ドライバー教育とドライバー訓練プログラム
 ドライバー教育またはドライバー訓練が若年道路使用者の安全に対してどの程度の影響を与えるかを評価するのは難しく、それはこの二つの用語が文献においてしばしば混乱されて用いられているためである。これらのプログラムに対する評価の多くは、何が「教育」プログラムに含まれ何が「訓練」プログラムに含まれるかの線引きを明確にしておらず、またいわゆる「教育」プログラムが実は訓練の要素を含んでいることも多く、逆の場合も同様である。

 しかし、ドライバー教育とドライバー訓練には明白な違いがある。RTA(2000年a、p13)の報告書において「ドライバー教育」は、広報、宣伝、警告、あるいは法的制裁を通して安全な行動を教え、知識、態度、行動を向上させることと関連して引用されている。
 対して「ドライバー訓練」はRTA(2000年a、p13)の報告書において、路上での車の取り扱い技術のような車のコントロールや技能と関連して取り上げられている。MayhewとSimpson(1990年)は二つの用語の違いについて、ドライバー教育は運転に対する態度といった要素に重点をおいており、一方ドライバー訓練は、特に広報などの文脈においては、スキルの習得が中心である、としている。しかし彼らも、近年これらの区別がはっきりしなくなってきていると述べている(Mayhew&Simpson、1990年)。

 ドライバー教育プログラムは、若年層の自覚や知識レベルを変化させてきた。しかし行動の変化のついては、教育プログラムが若年ドライバーの安全性を向上させ得るかは疑問とされてきた。ドライバー訓練プログラムもまた、若年ドライバーの行動に対する潜在的な影響力は疑問とされてきた。RTA(2000年a)はいくつかの調査結果によると、ドライバー訓練活動によって自信過剰や危険を犯そうとするなど、若年層を無防備な道路使用者にする要素が増大し、結果として期待に反する行動が増加する場合もあるとしている。

 ドライバー訓練とドライバー教育に関する調査を議論する際には、評価されたプログラムの活動に関しての説明が不足していることを考慮しなければならない。したがって、以下の議論においてもこのことを考慮するのが適切である。

 若年層の安全行動一般に関して、学校単位の負傷防止プログラムが若年層の安全行動に与える影響には限度があることが報告されている。このようなプログラムが効果をあげるには、教師がこれを指導し、長期にわたり複数の授業で、要点を絞り、学校のカリキュラムの一部に組み込み、親も参加し、様々な方法で行い、例えば法律の改正のようなコミュニティの変化をサポートすることである(Elkington,Hunter&Mckay,2000年)。

 MorrissyとCatchpole(1998年)はまた、コミュニティでの追加プログラムや支持があれば情報がよりいっそう効果的になると示唆している。実際のプログラムのうち短期間のみ実施するものでは、知識を変化させる以上に強い影響を与えているというエビデンスは見られない(Elkingtonら、2000年)。

 特に交通安全に限れば、Vernick,Li, Ogaitis, MacKenzie, Baker, Gielen(1999年)は個人レベルで見てもあるいは地域レベルで見ても、高校でのドライバー教育が若年ドライバーが自動車衝突事故に巻き込まれる割合を減少させるという納得できるエビデンスはないと報告している。彼らは、こういったプログラムは早期の免許取得を促し、それが若年ドライバーが交通事故に巻き込まれる割合の多さと関係しているのかもしれないと述べている(Vernickら、1999年)。このようなプログラムの実施にあたってFraser(1998年)は、カリキュラムの内容として路上での外傷および法廷での訴訟といった「身体的および経済的な結果がいかに重大であるかを強調するような教育」を提供する必要があるとしている(Fraser、1998年)。

 Williamsは交通安全教育プログラムのレビュー(1999年)において、効果的なプログラムでは免許を与えることと訓練や教育のイニシアチブが統合されていることを示唆している。Williams(1999年)は、自動車学校は学校のカリキュラムから切り離されており、学校のカリキュラムは地域のプロジェクトから、地域のプロジェクトは公共の教育キャンペーンから切り離されていることを強調した。そのため交通安全教育は、若年層向けの他の交通安全イニシアチブと統合される必要がある。

 特にドライバー訓練に関して、正規の訓練を受けた生徒では受けなかった生徒より交通事故の頻度が少ないというエビデンスはない。Harrisonの報告(1999年)によると、適切な対照研究による評価において、ドライバー訓練プログラムはいつも、ドライバーの行動に関してもあるいは衝突事故のリスクに関しても証明できるような期待どおりの影響を示せないでいる。

 ドライバー訓練を行なうインストラクターが受ける訓練にも変化が必要であり、車のコントロールや交通ルールの知識から離れて、安全で直観的な運転習慣へと訓練内容を変えるべきだと言われてきた(Masters,1998年)。もう一つのイニシアチブは、ドライバー訓練業界の姿勢と説明責任を変化させ、安全な運転法を教え、基準を設けて質を維持するようにすることであろう(Masters,1998年)。TriggsとSmith(1996年)はまた現在の訓練、特に免許取得前の訓練は車のコントロール技術や公式な交通ルールばかりに集中しすぎているとしている。彼らは、車のコントロール技術や交通ルールの知識以外にも運転に必要なことがある、ということを初心者ドライバーにしっかりと理解させる必要があると述べている(Triggs & Smith, 1996年)。

 初心者ドライバーの訓練は専門の運転インストラクターだけの責任ではない。仮免許運転練習者の訓練には親たちが関わっていることが多い(Fletcher, Hamilton & Hewitson, 1997年)。そのため、TriggsとSmith(1996年)は、プログラムが親たちに初心者の手助けをするために必要な材料を提供し、親たちが容易に訓練課程に関われるようにするべきであると提案している。VicRoadsの開発したこのようなプログラムには、”Key Please”というタイトルがつけられた。これは仮免許運転練習者とその親たちの両者を対象とし、Lプレートのドライバーが免許取得前に行う運転練習の量を増やし、また多様な練習をさせることを目的としている(MacKenzie,1999年)。評価結果は参加者が運転を教え、監督し、学ぶための知識、理解、手段を取得したことを示した。また仮免許練習者たちは自分たちの学んだ内容に関する会合に参加した後に、管理された練習をより多く行なおうとしたというエビデンスもあった(MacKenzie,1999年)。しかし、その評価で交通事故が減少したと示すことはできなかった。

 高リスクグループに対するプログラム
 リスクの高いグループを対象としたプログラムは有望と思われる。そのようなプログラムの1つに交通違反者プログラム(Saffron, Wallington & Chevalier, 1999年)がある。これによると、プログラムに参加した交通違反者が再び違反を犯す割合は、参加していない交通違反者に比べ25%少ないと報告されている。しかしながら、TriggsとSmithの報告(1996年)では、若年の問題あるドライバーに特に焦点を合わせて計画された活動は、その他の若年ドライバーに対する潜在的なイニシアチブに比べて優先順位を低くすべきだとされている。

 Catchpole, MacDonald, Bowland (1994年) は若年ドライバーにとっての車と運転の重要性を調査し、この要素からはそのドライバーが衝突事故に巻き込まれやすいかを予測できないことがわかった。彼らの報告は、“スピードを出したがる奴ら”に注目し特定する方法は、交通事故での外傷を減らす有益な方法とは認められないとしている(Catchpole, MacDonaldら, 1994年)。

 メディアを使ったキャンペーン
 試験的なスケールのものを除けば、メディアに基盤を置いた方策についての研究をサポートするエビデンスは充分に得られていない(Elkingtonら, 2000年)。自覚を増し、知識を高め、心構えを変えさせるのにマスコミが効果的であることにはエビデンスがある。しかし、これらのイニシアチブが行動を変えさせるだけの効果があるというエビデンスは全くない(MADD, 1999年b)。

 Waugh(1998年)によると、ウェスタン・オーストラリア州全体で行われた交通安全宣伝の宣伝対象であった若年層グループでは、この宣伝を記憶しているという者が多かった。しかし、若年層の言い分は、「自分たちには関係のないことだ」「自分たちの文化や考え方に合っていない」であった。従って彼らの行動に変化はなかったのである(Waugh、1998年)。

 しかしながら、Senserrick と Harrison(1999年)が初めにMUARCニュースレターに寄せたレポートは、感動と教育を組み合わせた広告スタイルはさらに改良して使用することができ、情緒的で有益で真面目であると理解されるように広告を改良していくことで広告の信頼性と妥当性を最大にできると結論付けている。

 奨励計画
 特に労働安全の分野では、奨励プログラムが安全性を高めるのに効果があることがはっきりしている(Wilde,2000年)。交通安全の分野では、無事故のドライバーに対する無料での免許更新と保険料減額プレミアムを含む海外の奨励策が事故の減少につながっている。Morrissyと Catchpole (1998年)は、望ましい行動に対し報奨を与えるプログラムは、好ましくない行動を罰するプログラムよりうまくいくとしている。

 「ACT Safe Young Driver Awards Scheme」のレビューで、その著者らはコミュニティの中での草の根的な奨励策が弛まずに続けられ魅力的に行なわれれば交通安全の向上に役立つとしている(Anderson & Davies, 1999年)。彼らはまた、奨励策を基にした交通安全への介入が多少なりとも与えられ、高リスクグループを仲間レベルでターゲットにすれば、十分やり通すことができると提案している。しかし、この介入に対する評価では、若年層が危険な行動を取ったり事故に巻き込まれたりすることが減ったと示すことは出来なかった。

 ピアサポート・プログラム
 Elkingtonら (2000年)は、仲間のサポートというアプローチは知識や態度には影響があるが、行動面での結果は出ないことを示すエビデンスが見られるとしている。Hall (1995年, Cavallo, Montero, Sangster & Maunders, 1998年において引用されている)は、仲間教育は有益な方法であり特定の若年層グループに届くとしている。若年層は情報源として大人や専門家を利用することには消極的で、仲間内で一体感を持ち、知識や情報は仲間から得ているということが認められている(Hall, 1995年)。

 Cavalloら (1998年)は、参加者の経験を考慮に入れたり、安全なグループの中で試してみる機会を提供するなど、プログラムが参加者にとって意味のあるものであることが重要だとしている。MorrissyとCatchpole (1998年)は、ある特定の行動を起こしたり、防いだりするのに必要な技術をトレーニングすることは行動を変えることに効果があり、ピアサポート・プログラムに取り入れてはどうかと提案している。

 若年層の安全への介入の潜在的要素
 若年層は交通事故で死亡したり重傷を負ったりする割合が高いことから、プログラムの開発、実施にあたっては特に若年層を対象とすることが勧められてきた(RTA, 2000年b)。Youthsafe/RTA Projectはそのようなプロジェクトのひとつで、若年ドライバーの行動によい影響を与えることを目的にしている。

 NHMRC(1996年)は、自動車事故を扱う介入においては、無謀行為そのものに対してではなく行動に対して影響を及ぼすような次の要素にターゲットを絞る必要があると提案している。介入の要素に関してはすでに議論してきたが、このなかで何人もの著者が将来の介入に含まれるべき様々な問題点を唱えてきた。ここまでに述べた幾つかの方策に関連して若年層の安全への介入に存在する潜在的な要素には以下のようなものがある。

 1)非 難
 若年男性の定性的な問題を対象とするグループでは、スピード違反を非難をすることで、この危険な行動にかかわろうとする若年層の気持ちを思いとどまらせることができるとしている(Keys Young, 1999年)。RTA(2000年b)もまた、若年層の事故の多さに影響する認識的、行動的、社会的、文化的要素といった潜在要素をプログラムで取り扱う必要があるとしている。

 2)家族と友人の役割
 定性的な問題を対象とするグループでは、多くの参加者が家族から知識やサポートを得ているとみなしており(Keys Young)、したがって、親たちや保護者を介入に役立てることも考えられる。Fletcher(1998年)も同様に、父親たちがグループとして交通安全分野のさまざまなイニシアチブに関わりを持っていく必要があるとしている。彼は、問題点の特定、方策の計画には父親たちの参加が必要で、実行にあたっては父親たちが果たすべき役割があると提案している(Fletcher, 1998年; Fletcherら, 1997年)。さらにBolen, Sleet, Johnson(1997年)は、親たちはよいマナーの運転行動をとり常に交通ルールにしたがって運転することで手本となって、未熟なドライバーの交通事故を減らす手助けができるとしている。

 TriggsとSmith(1996年)は、親たちに初心者の手助けをするために必要な材料を提供し、運転学習過程に親が関わることを奨励し促進する方法を勧めた。NRMAの調査(Fletcherら, 1997年)では若年男性の70%が運転を学ぶときに父親に手助けしてもらった(母親の手助けは55%)との結果がでている。また彼らは、父親たちは息子の路上事故や運転欲求に対して影響を与えうる立場にあるとし、息子が車を利用することを制限したりいつどこで運転するのかをコントロールすることが、息子を危険から守ることにつながると述べている(Fletcherら, 1997年)。

 若年男性ドライバーに的を絞った教育キャンペーンでは、女性も重要な役割を担っている。女性は、危険な運転に対する非難を強調する目的に利用できる(Keys Young, 1999年)。

 Stewartら(1995年)によると、若年層の飲酒や飲酒運転には友人からの影響も要素として大きい。彼らは、対応策として友人の役割を強調するべきだとし、互いに悪い影響を与える(つまり飲酒をあおる)のではなく、友人としてお互いに責任を持たせるように提案している(Stewartら, 1995年)。

 対象グループの参加者のうちアボリジニーからは、アボリジニーのコミュニティでの教育キャンペーンにポジティブな影響を与えるためには長老たちに関わってもらうのがよいとの提案があった(Key Young, 1999年)。

 3)危険にさらされないために
 若年ドライバーの路上での負傷事故を減らすための潜在的な介入として、彼らが危険にさらされる機会を少なくし、また運転する機会を減らす(たとえばバスに乗る)ことが考えられる。Leichhardt Council はその「Youth Road Safety Action Plan」の中で、移動手段を変えるといった(より危険の少ない)行動へと行動変容を促すキャンペーンを通して、危険を最小限にするといった対策が支持できると提案している。

 4)運転技術についての誤った認識の是正
 Dawson (1998年) は、自分自身の運転技術が優れていると思っている新人ドライバーほどスピード違反をする率が高い、と報告している。従って若年ドライバーの自分の運転技術への過信を是正する方策を研究するべきだとしている(Dawson, 1998年)。

 「Youthsafe/RTA Project」のコンセプト
 Youthsafe/RTA Projectのコンセプトの図式は以下のページで述べられているとおりで、プロジェクトが改良、実行され評価されていくための指針となる枠組みを表している。この図式はこの文献レビューで概説された危険要素、事前の介入、ドライバーの特徴、潜在的な方策を考慮して展開されたコンセプトを描写している。Youthsafe/RTA ProjectはRTAの「交通安全2010イニシアチブ」のなかで行なわれる。

 Youthsafe/RTA Projectの潜在的要素は図式の中央に描写されており、RTA2010イニシアチブのうちSafer Roads, Safer People, Safer Vehicles and Community Based Actionと名づけられた対策に沿って行なわれる。環境面や技術的解決策への主張やロビー活動、支持基盤となる法令の制定と施行といったプログラムに潜在する要素は、RTAのSafer Roads, Safer Vehiclesアプローチのなかで行なわれる。

 図式に記されているYouthsafe// RTAの潜在プログラムの要素として、他に次のようなものが挙げられる。奨励すること、家族や友人が関わること、危険な行動を非難すること、危険にさらされる機会を減らすこと、運転技術の過信を改めること、ドライバー教習業界の基準と説明責任を向上させること。これらの要素はRTAの「2010 Safer People and Community Based Action」と名づけられた対策のなかで行なわれる。例えば、奨励という潜在要素は若年ドライバーをより安全に運転させることを目的にしている。奨励策はRTAの2010 Safer People対策に合わせたもので、この対策ではきちんとした施行とより強力な行動が強調されている。奨励策は報奨を与えることで安全運転を行なうように強化することができるが、一方でRTAの施行策は安全でない運転を罰することで安全運転を促している。

 Youthsafe / RTA Projectの成功をより確実にするには、若年層との継続的な話し合いが不可欠である。若年層はプログラムの発展に影響を与え、また若年層の様々な運転経験やライフスタイルがきちんと考慮されるようになる。若年層との話し合いが重要であることはRTA(RTA, 2000年a)によって強調されており、またMorrissyとCatchpoleの報告(1998年)においても、対象となるコミュニティとともに行動することが有効性を高めるとされている。

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